2014年04月09日

[TUP速報973号] 情報公開という非暴力抵抗運動の系譜

[非公開設定を解くのを忘れていたのでしばらくこのあたりに置いておきます。nfsw19]

投稿日 2014年1月16日

<情報公開という非暴力抵抗>

権力の圧制に対する非暴力抵抗手段の中でも特にインパクトの大きい行動のひと つに、情報公開がある。ここ数年チェルシー(旧名ブラッドリー)・マニング、ウィキリークス、アノニマス、エドワード・スノウデンなどが巻き起こした情報公開への働きかけにより、情報抑圧と市民監視という米国内の反民主的な仕組みがいかに世界的な軍事独裁政権機構を支持してきたかが明らかになりつつある。しかし、このような情報公開という抵抗手段は決して新しいものではない。

43年前、ベトナム戦争に反対していた市民を監視していたFBIの活動を実証する ために、数人の一般市民がフィラデルフィア郊外のFBIのオフィスに忍び込み、エ ドガー・フーバーの秘密監視プログラムCOINTELPROの実態を暴露する書類を盗んで報道機関に送った。この文書には、おとりエージェントが市民運動へ入り込んで個人情報を集めたり、霍乱情報を流して市民グループを分裂させたり、扇動を行なって市民運動を暴力的な方向に導いたりする隠密作戦の内容が明らかにされていた。民主制の基盤を揺るがす市民へのスパイ活動を暴露するこの情報は大きな反響を呼び、自国市民の監視を禁止するFISA法(外国情報監視法)の立法に結びついた。さらに、ベトナム戦争に関する軍部の情報操作に対する市民の関心と反戦の世論を高めることになった。

2014年1月8日、43年間の沈黙を破り、この情報公開を行なった市民が名乗りをあげた。彼らの動機についてはエイミー・グッドマンが詳細なインタビュー (http://www.democracynow.org/2014/1/8/it_was_time_to_do_more )を行なっている。

市民による絶え間ない抵抗運動の系譜と動機を伝える文脈を提供したいと思い、 岩波書店月刊『世界』一月号掲載の拙稿「真実を知らしめることは犯罪ではない」をTUP速報としてお届けします。

前書き・執筆:宮前ゆかり/TUP


真実を知らしめることは犯罪ではない
<内部告発者を守る人々:ジャーナリストの義務と責任>


「……報道機関の仕事は、権力に対し真実を突きつけることです。
……内部告発者が現れたら、私たちは彼らのために戦わなければなりま
せん……内部告発者の口が封じられた場合には彼らの声となる必要があ
ります。内部告発者が追いつめられたときには彼らを守る盾となるべき
です。内部告発者が監禁された場合には彼らを解放しなければなりません。
真実を知らしめることは犯罪ではありません。これは我々のデータ、我々
の情報、我々の歴史です。それを自らの手にするために戦わなくてはな
りません。……」
――セーラ・ハリソン:ウィキリークス


<無数の人々の犠牲と献身>

ウィキリークスの法律部門リサーチャー、セーラ・ハリソン(32歳)は、
2013年6月23日以降、香港から南米へ向かうエドワード・スノウデン
(30歳)の安全を守るために逃避行に付き添ってきた。米国政府がスノウ
デンのパスポートを無効にしたためモスクワのシェレメチエヴォ空港で
1カ月以上足止めされていた間も、ロシアの弁護士や人権擁護グループ
の尽力を受け、エクアドル、ボリビア、スペイン、ドイツを含む世界
21カ国に対する亡命申請と交渉活動を行なった。スノウデンの一時亡命
ステータス実現を確認した後、11月6日、英国籍を持つハリソンは突然
ベルリンに現れた。内部告発者を守るジャーナリストの役割が危機に瀕
していることを訴え、自らもドイツへ亡命したことを明らかにした。

香港で6月に最初のスノウデンとのインタビューを行なって以来、グレ
ン・グリーンワルドとローラ・ポイトラスは、スノウデンが明らかにし
た米国国家安全保障局(NSA)の違法行為に関する膨大な内部告発情報の
報道責任を担ってきた。グリーンワルドのパートナー、デイビッド・ミ
ランダは、ドイツに在住するポイトラスと接触した後グリーンワルドの
いるブラジルへ帰国する途上、8月18日にロンドンの空港で9時間にわたっ
て拘束され、コンピューターを含む全所持品を没収された。この拘束に
は事前にテロリズム法が適用されていたことが明らかになった。ジャー
ナリズムをテロ行為と拡大解釈する英国政府の主張をめぐり、現在、熾
烈な訴訟が進行中である。

内部告発サイト「ウィキリークス」の協力者ジェイコブ・アペルバウム
は、匿名暗号システムTORの開発に参加しているエンジニアだ。過去に
何度も米国の空港で脅迫的な拘束にあったが、最近ドイツに居を移した。
グリーンワルド、ポイトラス、アペルバウムは3人とも米国市民である。
建国の志として言論の自由を最優先させ、世界でも最も先進的な憲法修
正第1条を掲げる米国で、内部告発を支援するジャーナリストやエンジ
ニアが身に危険を感じ、実質的に政治的亡命を強いられている。

近年、米国では多くの内部告発者およびその支援を行なう活動家やジャー
ナリストが次々と逮捕され、投獄されている。「米軍ヘリ無差別銃撃ビ
デオ」を含む内部告発情報をウィキリークスに提出し、イラク戦争にお
ける米軍の戦争犯罪を公に知らしめたチェルシー(旧名ブラッドリー)・
マニング(25歳)[1]は、3年間無罪のまま独房で拘留され拷問を受けた後、
憲法をことごとく無視する軍事裁判で35年の懲役を言い渡された。

諜報企業ストラットフォー社は、軍事および外交情報のブローカーとし
て政府内外に正誤混合の情報を提供して膨大な利益をあげていた。ジェ
レミー・ハモンド(28歳)は、マニングの行動に勇気づけられ、ハッカー
集団「アノニマス」の活動に参加していたが、2012年1月から2月にかけ
てFBIの密告者 Sabuに誘導され、ストラットフォー社のサーバーに侵入
した。ダウケミカル社がストラットフォー社を雇ってボパール[2]の犠
牲者を監視していたことや、金融汚職を糾弾するオキュパイ運動の活動
家を追跡していたことなど、大企業の人権侵害や米国政府の汚職を示す
数々のファイルは匿名でウィキリークスに提出され、情報公開が始まっ
た。

ハモンドは2012年3月に逮捕され、2013年11月15日、司法省の要求どお
り、ストラットフォー社のクライアントの妻である裁判官から10年の禁
錮刑を言い渡された。ハモンドは裁判で声明文を読み上げ、密告者
Sabuを使ったおとり工作で、FBIが世界中の若いハッカーたちを扇動し、
ブラジル、トルコ、シリア、イランなどの政府サイト攻撃を組織したこ
とを明らかにした。同社をおとり工作のターゲットにしたFBIの動機は
謎である。これまで黙々と詳細な整理・編集の作業を施し「GI File」
と名づけて継続的に告発情報を公開してきたウィキリークスは、ハモン
ドの刑が確定した直後、これまで保留にしてきた50万件の秘密メールを
一気に公開し始めた。

一方、好奇心旺盛で綿密なリサーチ力に優れたジャーナリスト、バレッ
ト・ブラウン(32歳)は、アノニマスの活動を追跡しているうちにその趣
旨に賛同し、一時はアノニマスの非公式なスポークスパーソンを自称し
ていた。ハモンドにより公開されたストラットフォー社の膨大なデータ
を分析しているうちに、ブラウンは米国政府と金融企業、軍事企業、議
員、ロビイストや商工会議所を結ぶ複雑で巨大な犯罪協力依存関係を認
識した。またウィキリークスやグレン・グリーンワルドの報道活動を妨
害する戦略や、ソーシャルメディアを駆使した軍部による周到な世論操
作の実態を知ることとなった。

ブラウンは、公共情報の透明化を求める活動家たちの協力をネット上で
呼びかけ、クラウドベースで膨大なリサーチに取り組んでいたが、
2012年9月12日、オンラインチャットでFBIの挑発(母親に対する脅迫)に
引っかかり、逮捕・投獄された。すでに公開されているストラットフォー
の情報をリンク・報道する行為に対し、司法省は「犯罪をオンラインで
呼びかけ組織した」との解釈を適用して17件の起訴を行ない、105年の
禁錮刑を要求している。最初の裁判は2014年4月28日に予定されている。

「情報公開や内部告発者の保護」を謳った大統領選挙での公約を裏切り、
オバマ政権下の司法省は、情報公開や政府の透明性を求める活動家や
ジャーナリストに対し、銀行強盗や過失致死罪の場合よりも厳しい刑罰
を科して、言論弾圧を行なっている。

学問の自由と知識の共有を求める抗議行為として、500万件の学術情報
をMITのシステムからダウンロードしたことをめぐり、懲役35年と罰金
100万ドルを求める司法省との過酷な訴訟の応酬に絶望し、2013年1月
11日、アーロン・シュワルツは26歳の若さで首吊り自殺を遂げた。彼も
また不条理な情報統制の犠牲者の一人だ。

シュワルツは、スタンフォード大学やMITなどのキャンパスで英才を誇
り、数々のIT企業や非営利組織の発足にも寄与し、当時はハーバード大
学のリサーチャーだった。14歳の時にウェブのコンテンツ配信フォー
マットRSS仕様の定義に参加し、クリエイティブ・コモンズ(著作権や情
報共有に関する法律的な試み)の開発や米国議会図書館のデータベース
の整備など、インターネットの公共性を確保する闘いに果敢に取り組ん
できた天才プログラマーだった。インターネットの自由を制限する「オ
ンライン海賊行為防止法案(SOPA)」に対する抗議運動でもその先頭に立っ
た。

世界各地でネットの公共性と情報の自由を維持するために活動してきた
多くの優秀な若者たちが、脅迫、逮捕や拘留などの弾圧を受けている。
近年では国家の犯罪を暴く調査報道に携わるジャーナリストが殺された
り、不審な死を遂げている。このような無数の人々の犠牲と献身の系譜
を踏み、スノウデンはNSAによる巨大な違憲行為の内部告発を決断した。

<史上最大の「特ダネ」の波紋>

スノウデンが提供したNSAの内部告発情報の報道は、当初は米国内にお
ける違憲問題の暴露記事から始まった。9-11事件に端を発するFISA(外
国諜報監視法)修正法が秘密裏に拡大解釈され、元々外国の諜報を目的
とするNSAがグーグルやマイクロソフトなどのコンピューター企業を通
して自国民を監視している。ベライゾン、AT&Tなどのテレコム企業は個
人情報を政府機関に売って市民のプライバシーを侵害している。具体的
なプログラムのコード名と共に、国家と企業が癒着した前代未聞の犯罪
が公になった。

その後、NSA関連報道は世界的な展開を見せる。英国のスパイ機関CGHQ
と密接に連携して2009年にG20サミットで、2012年には国連で、NSAが盗
聴を行なったことが明らかになった。人権擁護団体を含む非営利団体職
員、ドイツやブラジルなど同盟各国の政治家や活動家、ジャーナリスト
などを含む、世界中の9割以上の人々がNSAの監視下にあるとされる。さ
らに、米国政府は外国企業に対する産業スパイにも関わってきた。議員
でさえも監視の対象であり、FISA修正法の適用で、国民が同意していな
い政策がまかりとおってきた。

それだけではない。米国海軍諜報部門の士官が米国の機密情報や市民の
データをフィルターをかけずにイスラエルに提供していたことを、NSA
は知っていた。国家秘密保護を怠って国益や国民の安全を内外の脅威に
晒し、政府の腐敗を許してきたNSAの現状が公に提示されたことで、よ
うやく国内政策や国際関係の見直しを求める世論が高まっている。内部
告発者がいなければ、このような理解は得られなかったであろう。

当初はガーディアン紙が特ダネで口火を切ったが、その後、米国のニュー
ヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙、プロパブリカ(非営利オ
ンライン・ニュース・サイト)、ドイツのシュピーゲル誌、フランスの
ルモンド紙などが報道協力体制を敷き、膨大な情報を分析し、質の高い
調査報道に力を入れている。NSAの盗聴・監視の対象が各国の要人や企
業に及んでいることから、欧州諸国だけでなく、ブラジル、ベネズエラ、
ボリビア、インドなどでも報道が広がっている。現在はベルギーのモバ
イルネットワークを使った諜報システムに関わる不法行為に関する情報
が浮上中であり、近々カナダに関する報道も予告されている。

スノウデンの内部告発情報の範囲は膨大であり、報道範囲がどれだけ拡
大するのか不明だ。情報量が多すぎて現在のペースではNSAの実態が明
らかになるまで何10年もかかるという懸念や苦情も出ている。一部には、
情報すべてをネットに一括掲載しろ、とグリーンワルドに要求する情報
活動家勢力もいる。これに対し、グリーンワルドは、スノウデンから
「ジャーナリストとしての報道責任と判断に任せる」と頼まれたので、
無差別な情報公開はありえないと応答している。

6月初旬からガーディアン紙上でNSAに関する衝撃的な内部告発報道が開
始されて以来、グリーンワルドだけでなく、ガーディアン紙に対する政
府の弾圧も表面化した。CGHQの職員がガーディアン社内に現れ、物理的
にコンピューターのハードドライブを破壊した。ガーディアンの編集長
アラン・ラスブリジャーは英国議会に召喚された。マニングやウィキリー
クスに関する過去の報道では、内部告発者を擁護する姿勢が足りないと
か、国家と癒着し迎合していると活動家たちから批判されていたガーディ
アン紙だが、スノウデンの告発情報をめぐる報道で、遅まきながらも権
力に抵抗せざるを得ない新聞企業の姿勢が浮き上がった。

史上最大の「特ダネ」をめぐり、ジャーナリストや報道機関の役割、内
部告発者との関係や通信手段についても議論が巻き起こっている。

米国では、憲法修正第1条が唱える「言論の自由」を前提に、従来の商
業的報道機関は「言論界・第4階級」の権威や役割を「揺るぎない特権」
としてきた。しかし、国家権力との癒着に依存する報道慣習を批判する
ネット世代のジャーナリストや情報活動家(ハクティビスト)が出現し、
ジャーナリズムのあり方に多方面から挑戦状がつきつけられている。急
激に変化する技術的な環境がそれを後押ししている。

例えば、ウィキリークスが提示したような匿名ドロップボックス(オン
ライン投函箱)を使い、ジャーナリストの主観的人脈に依存せずに、匿
名者からの内部告発情報を受け取る通信技術の開発が進行している。政
府による報道機関への弾圧や介入が強化されるにつれ、各国特有の言論
や通信の管轄圏の定義などをめぐり、法律面での戦いも激しくなってい
る。

報道機関は本当に「統治される側」に立ち、「自治を行なうために必要
な知見ある市民を育む」報道活動をしているのか。または支配権力の利
権を守り、市民の目を眩ます「情報の守衛」に過ぎないのか。

情報とは何か。報道とは何か。その違いは何か。情報は誰のものか。調
査報道で扱われる公開情報の取捨選択は誰がどのような責任で行なうの
か。報道にかかるコストは誰が払い、報道から得られる利益は誰が享受
するのか。

<スノウデンの功績への評価>

2013年9月3日、国際反核法律家協会ドイツ支部およびドイツ科学者連盟、
そして今年初めて加わった透明性国際協会ドイツ支部は、由緒ある「内
部告発者賞」授与式を合同で開催し、人類、社会、民主制、平和、環境
に悪い影響を及ぼす違法行為や危険な展開に警鐘を鳴らす勇敢な内部告
発者として、スノウデンの功績を讃え、褒章を与えた。授与式では、ジェ
イコブ・アペルバウムが、移動の自由を奪われているスノウデンの代わ
りに声明文を読み上げた。

「……変化はたった一人の声から始まるという理解が広まっていま
す。……市民に対する必要な警告行為を国家保安への脅威と同一視する
ような政策は、必然的に無知と不安をもたらします……事実の探求や調
査よりも脅迫や報復を優先させ、ジャーナリストにテロリズムを対象に
した法律を適用し、政府内部の人間だけが国家安全と公共利害の審査を
許されるとしたら、我々は開かれた社会を謳歌することができるでしょ
うか?……」

10月9日、モスクワ市内と思しき某所で秘密裏に重要な儀式が催された。
レイ・マクガバン(元CIA高官)、トマス・ドレイク(元NSA高官)、ジェス
リン・ラダック(元司法省高官)、コリーン・ロウリー(元FBI高官)とい
う米国政府の著名な内部告発者が一堂に集まり、諜報分野で最も栄誉あ
る「サム・アダムズ賞」[3]をスノウデンに授与した。「公共の利益を
重んじ、自らの身の危険を冒して良心に従った、その意思決定を讃えま
す」。マクガバンの言葉に笑顔で頷くスノウデンの様子を伝える無音の
ビデオは、参加者が無事に帰路についた3日後にウィキリークスにより
公開された。

<新たな抵抗の試み>

非営利基金Freedom of Press Foundation[4]は、10月15日、今は亡きシュ
ワルツが開発したソフトウェアを基にした匿名オンライン投函箱「セキュ
アドロップ」を発表した。このシステムを使うと、内部告発情報提供者
の身元が受信側には分からないので、身元を割ろうとする権力側の弾圧
の効果も軽減される。希望する報道機関に対し設置および技術サポート
を提供しており、すでに米国のフォーブス誌とニューヨーカー誌が採用
している。内部告発者による安全な情報提供を可能にするこのシステム
は、著名なセキュリティ専門家ブルース・シュネイアーやTOR開発者ア
ペルバウムなど先鋭技術者による監査を受け、さらに安全性を高めるた
めにクラウドベースで優秀なハッカーを募ったバグチェックを重ねてい
る。

匿名投函箱を使った本格的な内部告発システムの第一弾を示したウィキ
リークスは、ジャーナリズムにとって内部告発がいかに重要な役割を担っ
ているかという認識を高めた。また、各国の監視体制が強まるなか、
ジャーナリスト、弁護士や人権擁護団体の職員などが匿名通信の技術を
身につける必要性も急速に理解され始めている。ウィキリークスや「セ
キュアドロップ」の他にも、多様な匿名暗号通信システムの開発が世界
各地で試みられており、普段のメールにも暗号化が推奨されている。

暗号システムはユーザー・インターフェースが難しく、普通の人にとっ
て有用性が低い。しかし、NSAの無差別な監視とプライバシー侵害の深
刻な実情が暴露されて以来、ビジネスでも暗号化されたメール通信が普
及し始め、インターフェースの改善が進んでいる。特に調査報道に取り
組むジャーナリストやニュースルームが公共暗号キーをプロファイルに
表示する習慣が広まっている。

スノウデンによる内部告発行動が発覚した直後に、FBIはスノウデンが
使っていたとされる匿名メールのプロバイダー、Lavabit社に対し40万
人の顧客データにアクセスするための暗号キーを手渡すように要求した。
匿名メールというニッチ市場を狙ったこの小さな企業を立ち上げたエン
ジニア、ラダー・レビソンは、身の危険や経済的な破綻を覚悟で政府の
要求を拒否し、会社を解散した。

2013年10月7日の『デモクラシーナウ!』で「何を守ろうとしているので
すか?」というエイミー・グッドマンの質問に答え、レビソンはこう語っ
た。

「もちろん、憲法修正第4条(令状主義)に違反する政府への抗議でもあ
りますが、なによりも重要なのは、インターネットの『信頼性』を守る
必要がある。ネットの信頼が崩れたら、金融や取引など重要な経済活動
の信頼も失われます」

インターネットはこれまで、米国主導で発達してきた。情報技術のイノ
ベーションは、80年代後半からの米国の経済成長と世界的な優勢維持に
貢献してきた。しかし、スノウデンの告発情報によれば、グーグルやマ
イクロソフト、アップルといった米国企業の製品や通信技術は、全世界
を網羅する監視ネットワークに採用され、民主化支援を謳う米国の外交
的広報とは裏腹に、シリアやバハレーン、エジプトなどで、独裁政権に
よる市民監視と弾圧に寄与してきた。

首脳の通信が傍聴されていたドイツやブラジルでは、オバマ政権に対す
る疑惑や怒りが吹き荒れている。インターネットそのものに対する不信
も高まり、インターネットに国境の壁を設けようとする動きも生まれて
いる。世界各国があたかも中国や北朝鮮のように情報の壁を作る傾向が
広まると、開放された情報空間を前提としたネットの本来の機能が損な
われる。すでに、シスコ社など米国のネットベースのビジネスに損害が
出ている。「開かれたネット」という信用を奪回しなければ、「アメリ
カ」の国際的信用は政治的にも経済的にも打撃を受ける。

1991年に強靭な暗号メール・プログラムPGP(Pretty Good Privacy)を考
案した暗号のグル的存在、フィル・ジマーマンは、2012年に「サイレン
ト・サークル」という暗号メールシステムを発表した。しかし、政府の
弾圧によるLavabit社の解体直後に、突然「サイレント・サークル」を
閉鎖した。

レビソンとジマーマンは、その後新たな匿名メールシステムの開発体制
「ダークメール・アライアンス」を結成し、2014年にはNSAの監視を退
ける「サイレント・メール」という製品を発表する予定であると表明し
ている。

10月15日、グリーンワルドはガーディアン紙を離れ、新しい報道プロジェ
クトの計画を発表した。NSA告発報道で当初からチームを組んでいるポ
イトラス、「ブラックウォーター」や「汚い戦争」などの著書やドキュ
メンタリー映画を発表してきた独立ジャーナリストのジェレミー・スケー
ヒル、そしてワシントン・ポスト紙やハッフィントン・ポストで人気の
高いダン・フルームキンなど、優秀な調査報道ジャーナリストを集め、
イーベイの創始者であり、コンピューター・プログラマーでもあるピエー
ル・オミダイアが2億5000万ドルの投資を行なう。NSA関連の報道がさら
に深まるものと予想されている。しかし、この新しい報道体制に警戒心
を抱き、疑惑を投げかける人々もいる。

オミダイアは今もイーベイの会長を務めており、同社の子会社であるペ
イパルはいまだにウィキリークスに対する経済的封鎖を継続している。
2010年12月にペイパルがウィキリークスに対する経済的封鎖を行なった
ことに抗議して、アノニマスを名乗るハッカーたちがペイパルにDDoS型
の攻撃を仕掛け、システムを麻痺させた事件があった。逮捕された14人
のハッカーたち(「ペイパル 14」)に対する裁定は未だに解決しておら
ず、ペイパルは膨大な罰金を要求している。オミダイアはワシントン・
ポスト紙買収の入札競争で8月5日、アマゾン社の創始者ジェフ・ベゾス
に敗北したが、報道部門への野心は消えなかったようだ。

グリーンワルドは当初からウィキリークスを擁護し、マニング上等兵が
提供した内部告発情報の報道に力を尽くしてきた。同時にウィキリーク
スが公開した情報やマニングの内部告発情報をもとに、明晰な分析と理
性的な文体でジャーナリストとしての名前を上げてきた。ウィキリーク
スの開いた新しい内部告発ジャーナリズムの分野で腕を磨いたジャーナ
リストたちが一挙に新自由主義者の富豪の傘下に置かれること、そして、
ウィキリークスやアノニマスに敵対してきた企業の経営に携わってきた
富豪が巨大な投資で内部告発を扱う報道機関の意思決定権を握ることに、
深刻な危機感を抱く人々がいるのは当然であろう。

「ジャーナリズムには二つの役割があります。一つは正確で重要な情報を
市民に伝えること。もう一つは権力を持つ者に対し敵対的な監査をつき
つけること」と、野心を語るグリーンワルド。その抱負に値するプロジェ
クトが実現するのかどうか、そしてそれはどのような形で展開するのか。
今後の動向に目が離せない。

< TPPリーク文書の衝撃 >

11月13日、ウィキリークスは「TPP(環太平洋経済連携協定)」の「知的
資産」条項の全文95頁を公開した。日本を含め、8月当時の交渉に参加
した12カ国の立場が記録されている。TPPが扱う内容については、過去
4年間極秘状態のまま奇想天外な噂が飛び交っていたが、実際に文書が
公開されてみると、噂をはるかに超えるとんでもない内容だ。

600人にも及ぶ大企業のロビイストが議会の外で政策を決定し、各国の
法律を無効にする。なかでも、(1)インターネット上の情報(映画や音楽
も含む)へのアクセス制限、(2)医療や医薬品へのアクセス制限、(3)外科
手術に対する特許の適用、(4)著作権期限の極度な延長、(5)ネットのプ
ロバイダーに対する監視強要、などは特にあからさまな条項だ。科学的リ
サーチ、教科書、音楽や芸術、文学へのアクセスも極端に規制され、自
由なアイデアの交換も阻まれる。世界のGDPの40%を占める参加12カ国が
及ぼす経済的影響は大きい。人々の健康や言論の自由といった公益が企
業の収益追及の原理にねじふせられ、犠牲になる。国境を持たない巨大
企業資本が治外法権と市場独占で民主国家を乗っ取るクーデターだ。

TPP文書が公になると、世界中の報道機関や市民団体がデータ分析を開
始した。ワシントンポストに掲載された米国と日本の極端な孤立を示す
報告は、博士号に挑む大学院生による論文だった。

言論の自由を謳った建国の父トマス・ペインの精神を受け継ぐ米国の
ジャーナリズムは、マックレーカー(権力にとって都合の悪い「醜聞」
ジャーナリズム)の伝統に深く根ざしている。英国の植民地だった歴史
を鑑み、憲法の草案を練っていたトマス・ジェファソンとジェームズ・
マディソンは、「富豪貴族階級の誕生」を芽のうちに摘み取り「裕福な
企業」が公共の利益を侵害する可能性を阻止する仕組みを模索し、「権
利章典」を書いた。人間一人の重みが企業資本によって踏みにじられる
可能性を十分に予期していたのだ。

支配権力(施政者および資本を握る企業)を監視し、被支配者である市民
の公益を守る言論界の力に民主国家の未来を託す憲法修正1条は、ネッ
ト時代の民主社会にとってさらに重要な命綱となっている。

インターネット時代の「十分な知見を備えた市民」を育て、国家や企業
権力の弾圧を跳ね返す報道の自由を確保できる法律的管轄圏を定義する
ために、世界各地のジャーナリスト、エンジニア、弁護士が知恵を出し
合っている。米国内では、前述のFreedom of Press Foundationの他に
も、報道業界の改革を求める独立ジャーナリストが集うFree Press全米
会議、ネットの自由に関する法律的リサーチに取り組むEFF(電子フロン
ティア財団)やACLU(米国自由人権協会)などが連携し、内部告発者の保
護や権利の保障、権力による言論侵害の制限について、ネット時代を反
映した新しい仕組みを模索している。秘密保護法に直面している日本で
はどうだろうか。

2013年はジャーナリズムにとって試練の年であった。しかし権力による
言論弾圧に抵抗し牢獄から、亡命先から、ネットの匿名サイトから国境
を越えて届く内部告発者の合言葉が未来を語っている。

「――勇気は伝染する――」


[1] マニング上等兵は裁判が終わった時点で、これまで据え置きにし
ていた自分の性的アイデンティティの問題に向き合うため、女性であ
ることを宣言して改名し、性転換手術を求める公式な手続を申請中で
ある。現在男性のみの監獄で服役している。

[2] 1984年12月2日深夜、インドのボパールにあるユニオンカーバイド
社管轄の化学工場で起きた、世界最悪の毒ガス漏洩事故。住民2万5000
人余が死亡、30万人以上が被災したと言われる。訴訟や責任問題は未
解決。

[3] ベトナム戦争当時に内部告発を行ったCIA高官サミュエル・アダム
ズを記念し、諜報部門で倫理的かつ高潔な行動を取った人物を讃える
賞。引退したCIA高官から構成される「高潔なる諜報を求めるサム・ア
ダムズの同志」によって授与される。

[4] 米国政府の政治的な圧力を受け、2010年以降ウィキリークスが資金
難に追い込まれたことをきっかけに、内部告発者の擁護と報道活動を経
済的に支援するために2012年12月16日に発足。理事には、グリーンワル
ドやポイトラスの他に、「ペンタゴン・ペーパー」を開示したダニエル・
エルスバーグ、俳優のジョン・キューザック、詩人のジョン・ペリー・
バロウなど、そうそうたるメンバーが名前を連ねる。

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