「<ロンドンSW19から>のライブラリ」より抜粋
脱原発・反原発活動家が菅直人を捨てない理由
2011-06-19 17:54:55 posted by nfsw19library
『日経ビジネスオンライン』誌に連載されている小田嶋隆氏のコラム『ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明』がめっぽう面白い。毎度おもしろいが<2011.06.17 [Fri] - NO.1246>号掲載の『卓袱台返して菅笠ひとり旅』にはたいへん共感したので抜粋して貼り付ける。
*抜粋貼り付けの全文は「<ロンドンSW19から>のライブラリ」にあります。
http://ameblo.jp/nfsw19library/entry-10928287532.html
原発事故に関連するできるだけ正確な情報分析を読みたいと思ったら経済誌/経済紙を読むといい。これは今回の原発事故に限らず、大きな産業事故が起きた際にはいつでも有効なルール。経済誌/経済紙は、投資家や株主に正確な情報を提供すると言う創立本来の使命に乗っ取って、事故を起こした産業界におもねることのない正確な記事を提供することが多いから。
*
[抜粋からさらに抜粋したエッセンス]
卓袱台返して菅笠ひとり旅
小田嶋 隆
2011年6月17日(金)
<日経ビジネスオンライン 2011.06.17 [Fri] - NO.1246>号より抜粋
イタリアで6月の12日から13日にかけて行われた原子力発電所の再開の是非を問う国民投票は、94.05%という圧倒的な反対票を集めて幕を閉じた。結果を受けて、ベルルスコーニ首相は、原発との決別を約束している。
わが国では、自民党の石原伸晃幹事長が、翌14日の記者会見で、この件について以下のように述べた。
「あれだけ大きな事故があったので、集団ヒステリー状態になるのは、心情としては分かる」
驚くべき言及だ。
石原さんが「ヒステリー」という言葉を、「興奮・激情により冷静な判断力を喪失している状態」という辞書に載っている語義そのままの意味で使ったのだとすると、彼は、イタリア国民を「愚民」呼ばわりにしたことになる。これはよろしくない。
いくらなんでも、国政の中枢にある人物が、公式の会見の場で、こんな失礼な発言をカマして良いはずがない。幹事長は、言葉の選び方を誤った。おそらく、石原さんは、大きな数字を目の当たりにして、単独ヒステリー状態に陥っていたのだと、そう考えてさしあげるのが彼のためであり、日本のためでもあると思う。
今回は、原発について触れざるを得ない。そういう雲行きだ。
原発は、イタリアにおいてそうであったように、わが国でも、最も主要な国民的関心事になっている。当然だろう。当事国なのだから。
原発の是非をめぐる議論は、事故発生以来、ほとぼりがさめるどころか、日に日に過熱して現在に至っている。おそらく、この問題は、今後、郵政民営化の時と同じようなワンイシューの争点になるだろう。
つまり、自民VS民主や、地方分権or中央集権、あるいは小沢対反小沢といった従来からの対立軸は、すべて原発の是非に包摂されてしまうということだ。
で、その国論を二分する葛藤の中心に菅首相がいる。
不思議なめぐりあわせだ。
原発をめぐる議論は、菅首相の進退にも影響している。というよりも、いまや、菅首相の政治生命は原発論議の周辺にしか残っていない。
早期退陣を主張する勢力は、菅首相が、ここへ来て急速に脱原発への傾斜を深めていることについて、「原発を延命の具にしている」という言い方で、首相の政治姿勢を批判している。
批判は、大筋において当たっていると思う。
実際、菅首相は、脱原発というカードをちらつかせることで、四面楚歌の状況を、形勢不明の延長戦に持ち込むことに成功しつつある。ということはつまり、原発は、切り札になったわけだ。菅さん自身がジョーカーに化けたと申し上げても良い。エースでもなく、キングでもなく、絵札でさえなかった菅さんが、ある日突然、ゲームの展開を支配するトリックスターに変身したのである。
さてしかし、批判は批判として、現実的に考えれば、政治家が特定の政策ないしはビジョンを自身の政治生命の延命に利用することは、特段に不道徳なことではない。なんとなれば、そもそも政治というのは、ある定まった理想を実現するための手段を意味する概念であって、とすれば、政治を業とする者が、権力を維持するために政策を利用することは極めて当然の所行だからだ。権力は政策の道具になり、政策は権力の道具になる。そうでないと理想は実現しない。
興味深いのは、「脱原発」という立場を、自らの政治生命の延長につなげることのできる政治家が、どうやら、現状では菅さん以外に見当たらないことだ。
理由は、菅さんが、無力だからだ。
「無力」という言い方は、誤解を招くかもしれない。言い直す。要するに、菅直人という政治家は、通常の意味で言う権力基盤とは無縁なところから出てきた人だということだ。
菅さんには人脈が無い。頼りになる親分の庇護のもとにあるのでもないし、号令ひとつで馳せ参じる子分をかかえているわけでもない。同僚議員の人望もない。資金パイプもない。背後から支えてくれる団体も持っていない。
と、こうして並べてみると、どうにもお話にならないリーダーであるように見える。が、ただひとつ、彼には、時流を読む不可思議なセンスがあった。だから、日和見と言われ、風見鶏を揶揄されながらも、いつの間にやら、スルスルと、あらあら不思議わらしべ長者みたいにして権力の頂点にたどりついてしまった。
菅さんは、徒手空拳の日和見だったからこそ、権力抗争の真空の中に立っていることができた。おそらく、そういうことなのだと思う。偉大なるごっつあんゴーラー。元イタリア代表のスキラッチを思い出す。
私は、菅直人という政治家を必ずしも高く評価していない。個人的な好き嫌いを述べるなら、嫌いな側の半分に分類せねばならないと思う。
が、それはそれとして、私は、ここしばらく、従来の見方を改めつつある。どういうことなのかというと、菅直人という無手勝流の真空政治家が宰相の座にある時に、この度のような空前の災害が起こったのは、もしかすると天の配剤であるのかもしれない、というふうに思い始めているのだ。
現状、脱原発ないしは反原発を旨とする人々は、とりあえず菅さんを支持しているように見える。というのも、ポスト菅が誰になるのであれ、その人物は、必ずや菅さんよりは原発寄りの政策を選択するはずだからだ。とすれば、余事は措いて、ここは一番、菅さんにがんばっていただくしかない。猫の首に鈴をつけに行くネズミは、局外者でなければならない。
菅さん以外の有力な政治家は、民主党に所属する議員であれ自民党の領袖であれ、いずれも、原発と簡単に絶縁できる立場にはいない。
というのも、わが国の政治家として、多少とも地に足のついた政治活動をしてきた人物が、電力会社と無縁であることは考えにくいからだ。
いや、私は、「利権」や「癒着」について話しているのではない。「電力マフィア」がどうしたとか、「原発ファミリー」が裏から手を回して云々といったタイプの陰謀論を展開しようとしているのでもない。
そんな極端な見方をするまでもなく、原発は、あまりにも巨大で、その光はあまりにも明るい。だとすれば、影ができるのは、当然の帰結なのだ。
エネルギー政策は、国策の前提に属する基本線だ。
言ってみれば、卓袱台だ。
政治家は、国土という卓袱台の上に、食器を配置し、調味料を並べ、ふさわしい料理を配膳する仕事を担っている。
そんな彼らとて、エネルギーや国防のような「百年の計」(←つまり安易に改変できない政策)には、簡単には手を出せない。とりあえずは「継続性」を第一に、前例を踏襲しながら、当面の整合性を維持して行くしかない。かくして、卓袱台はいつしか無謬の前提になる。誰も、卓袱台抜きで食事をすることはできない。というよりも想像することすらできない。
卓袱台をひっくり返すことができるのは、テーブルマナーを知らないならず者だけだ。
国策の根本と無縁なところで政治活動をはじめ、補助金の確保や町おこしに心をわずらわされることなく選挙戦を戦ってきた例外的なアウトサイダーだけが、前提を覆すことができる。身内の人間には、心のこもった手料理の並んだテーブルをひっくり返すことなんて、思いもおよばない。だってそれは団欒の崩壊以外のなにものでもないから。
私は、菅さんが清潔だとか、素晴らしい人格者だと言っているのではない。菅さんには菅さんのマキャベリズムがあるはずで、そのマキャベリズムは相応に功利的で、必要に応じて汚れてもいるはずだ、とそう思っている。
が、菅さんの功利は、原発とあんまり関係がない。そこのところが、現状において、強みになっているはずなのだ。
(略)
アウトサイダーでいることもまた、別の意味で、容易な人生ではない。
菅直人という政治家が、自らの信念に従ってアウトサイダーの立場を選んだのか、単に力不足のゆえに結果として傍流を歩いてきただけなのか、そのあたりの事情はよくわからない。
が、とにかく、この機会を逃したら、脱原発はできないという、そのことだけははっきりしている。
菅さんという一見眠そうなアウトサイダーが原発に引導を渡すというストーリーは、こうして考えてみると、なんだか非常に魅力的に見える。
「まれびと」(流れてきた客人、流浪の異郷人)が、村に厄災をもたらす怪物を退治するという、神話の話型にもかなっている。
ニュークリアを分解して、ニューでクリアなエネルギーを作る。たしかに、お伽話じみている。このお伽話を実現するためには、石原さんの言う、「集団ヒステリー」(←地すべり的な世論の爆発)が必要なのかもしれない。
面白そうだ。
私は乗るつもりだ。
ラベル:エネルギー問題
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