2011年03月24日

<原発震災への対処> 基準は変えず、個人の安心に軸を置いて、がんばらない対処を

*お友達の影浦先生(東京大学)からのメールを転載します。「非常時だ」「非常時だ」と叫ぶ誰かの判断にまかせて基準を変えたりせず、よりどころを設定して冷静な対応をとることを勧めています。ちょっと長いですが1歩ずつ丁寧に前進するタイプの解説ですから、最後まで読まれると見通しがだいぶよくなると思います。0の次が2になっている理由はわかりません(聞いておきます)。

********** ********** ********** **********

Date:Fri, 25 Mar 2011 07:31:51 +0900
Subject:「冷静な対応を」


==========
基準を変えないように


福島第一原発の状況は依然として不安定でこれからどうなるかは予断を許しません。
現在、現場で状況改善のために作業を続けている多くの方に深い敬意を表します。

さて、周辺の空中放射線濃度が高まり、ほうれん草や原乳から放射能が、また原発付
近の海水から基準値を上回る放射性物質が検出され、さらに23日には東京の水道から
も乳児の「基準」を越える放射性ヨウ素131が検出されたことから、東京は安全だとか
安全ではないとか「1年間食べ続けると初めて健康に影響が出る可能性がある」とか、
様々な報道が広まっています。

全体に、政府やマスメディアは「安全」と言っており、これまで核汚染の危険を啓発
してきた団体は注意を呼びかけています。

十分な説明をせずに「「心配ない範囲内である」という点では普段と同じ」と言うの
は、多くの人にとって不安を煽ることにしかなりませんし、風評被害を恐れて情報を
開示しなければかえってやむない「風評被害」が広まります。


そこで、改めて、最も基本的なことを、定められた基準から整理してみました。「当
たり前」のことですが、情報が多すぎると「当たり前」のことが何だったかわかりに
くくなるので。以下は、原発に反対している活動をしてきた人から見ると保守的な立
場に立っていることになるかもしれません。


0. 問題点

ネットには、スウェーデン国立スペース物理研究所の山内正敏氏による、
放射能漏れに対する個人対策
http://www.irf.se/~yamau/jpn/1103-radiation.html
や、岡山大学の津田敏秀氏による
放射線による内部被ばくについて
http://smc-japan.sakura.ne.jp/?p=1310
のように、ただ「安心だ、安心だ」と言うのではない、具体的に参考になる情報もあ
ります。

また、カリフォルニア大学のモンリオール(B. Monreal)氏による講演の日本語版
福島原発の放射能を理解する
http://ribf.riken.jp/~koji/jishin/zhen_zai.html
のように、科学的な理解を促すものも出ています。

さらに、長崎大学の山下俊一氏・高村昇氏による
「放射線と私たちの健康との関係」講演会の記録
http://ameblo.jp/kaiken-matome/entry-10839525483.html
も手に入ります。

ところで、私自身は、これらの内容をそう疑っているわけでもありませんが、安心し
ませんし、判断にも迷います。それはどうしてか、理由を考えてみると、現在、群馬
や東京、埼玉、神奈川などに住む人々が直面している問題は、放射能をめぐる科学的
な知識よりもむしろ、自分たちが置かれた状況をどう考えるかという社会的な状況判
断により大きく関わっている
からだと思います。社会的な判断という観点からこうし
た情報を見たときに、少なくとも2つの点が曖昧になっているように思います。

(a) 原発事故という緊急時の基準、対処や判断と、日常生活の中での基準、対処や判
断の区別。群馬や東京、埼玉、神奈川などに住んでいると、福島第一原発の事故とい
う緊急事態の認識と、日常生活を送っている状況との間で、どこに身を置いてものを
考えるのか。
(b) 原子力発電所の事故という、ほとんど普通の人には制御できない出来事と、放射
能という、医療等の場ではそれなりに制御できており身近でさえあるものとの関係を
どう判断するか。

上記の記事は、(a) 原発の放射能漏れという状況が起きてしまったいわば非日常的な
状況で、及び/または(b) 放射能をそれなりに制御・対処可能なものと考えて、書か
れているようです。多くの報道は、どの観点に立っているのかよくわからない感じが
します。

もう一つ、私たちは、自分を含め、一人一人の安全の観点から色々な情報を読み取ろ
うとしますが、政府の発表などは集団を基本的な単位として見ているようです。

「直ちに健康に影響を及ぼすものではない」とか、「健康に害がないが念のために摂
取制限」といった表現は、どのような状況認識でどのような見通しのもとに言ってい
るかわからないことが多いため、理解しにくいものになっています(本当に健康に害
がないなら念のためも必要ないだろう、等々)。その結果、

(a) 個人のレベルでは、不安と猜疑心が高まり、情報への信頼を失う
(b) 大きくまとめると「基準を越えたけれど害はない」といった言葉が政府やメディ
アで流れることで、基準そのものの社会的な位置付けがなし崩し的に失われて無法地
帯化
していく

という、いずれも好ましくない状況が生まれます。


2. 決定的に欠けている情報

それとは別に、現在の政府発表や報道では、決定的に欠けている情報があります。

(a) これまでに漏出した放射性物質はどのくらいか?
(b) 現在も漏出しているのか、どのようなかたちで出ているのか、その量はどのくら
いか?
(c) これからどうなるのか?

もちろん、(c)はわかりません。けれども、(a)の推定(最近になってチェルノブイリ
の5パーセントとか、20〜60パーセントといった推定が出されましたが)、そして(b)
を正確に把握するための手立てとそれにより把握された情報、そして、それらが及ぼ
す影響をいくつかのケースにわけて整理したものは、公開すべきだと思います。

それがないと、現在私たちはどのような状況なのかを全体として把握できず、個別の
断片化された情報にますます右往左往する
ことになるでしょう。

以下は、(c)のこれからどうなるか、について、劇的に悪いことは起こらないという前
提でまとめるものです。「その前提でまとめる」からといって、実際に、劇的に悪く
なる可能性を否定しているわけではありません。


3. 水道水の放射性ヨウ素131について

3-1. 日本政府の暫定基準

2011年3月23日、東京の金町浄水場から1リットル当たり210ベクレルの放射性ヨウ素131
が検出されました。これは日本政府が定めた暫定的な乳児飲用指標値である100ベクレ
ルの2倍以上です(ちなみに大人の指標値は300ベクレル)。

これについても「飲まないに越したことはないが、やむを得ぬ場合は飲んでも影響は
ない」といった不思議な言葉が流れています。

英語などでネットを調べると、日本の暫定基準値水1リットル(キロ)当たり300ベク
レルは、国際基準3000ベクレルの10分の1で安全性について厳しい基準を採用している
といった情報が見つかります。これは、世界保健機構の状況報告第13号11-12ページに
書かれています。
WHO SITREP NO. 13
http://www.wpro.who.int/NR/rdonlyres/55CDFAF4-220A-4709-A886-DF2B1826D343/0/JapanEarthquakeSituationReportNo1322March2011.pdf

この数値をめぐって、「やむを得ぬ場合は飲んでもよい」というのは、「ま、しょう
がないか」という極めていい加減な発言に聞こえますし、他に手立てがない場合には
「本当に飲んでよい」ならどうしてそもそもこの基準値があるのだろう、と猜疑的に
もなります。この猜疑心は、上で述べた二つの状況、すなわち、

(a) 「基準値があるのに飲んでよいというのはゴマカシではないか、やっぱり政府/
メディア/専門家の言うことは信じられない」と、
(b) 「やむを得ない場合は逸脱してよいと簡単に言ってしまえるように基準値を設定
しているなら、本来、どのくらいでどんな危険があるのか基準値に基づいて考えるの
は無意味ということか、では何を信頼すればよいのか」

に向かいます。

さて、「1リットル当たり300ベクレル」の位置づけを考えましょう。これは日本政府
の暫定基準値で、それへの信頼を失いかけているのですから、関連する国際基準を考
えるところから始めてみます。

飲料水については、WHOが2004年に、
Guidelines for drinking-water quality, third edition, incorporating first and
second addenda
http://www.who.int/water_sanitation_health/dwq/gdwq3rev/en/index.html
を出しています。幸い、日本語版
WHO飲料水水質ガイドライン第3版(第1巻)
http://whqlibdoc.who.int/publications/2004/9241546387_jpn.pdf
もありますので、日本語版を見てみましょう。

問題になっている放射性ヨウ素131については、203-204ページに、表9-3「飲料水中の
放射性核種のガイダンスレベル」があり、ヨウ素131(131I)を見ると、

1リットル当たり10ベクレル

が「ガイダンスレベル」です。飲料水の水質ガイドラインでは、ヨウ素131は、1リッ
トル当たり10ベクレルが基準値なのです。ここで、青くなります。

ところで、この資料の202ページには、実は次のようにあります:

「これらのレベルは、一年以上前の核事故で放出された放射性核種にも適用できる。
表9.3の放射能濃度の値は、その年に摂取された飲料水中の濃度がこの値を超えなけれ
ば、各放射性核種につきRDL 0.1mSv(ミリシーベルト)/年に相当する。これによるリ
スクの推定値は本章の初めに記した*。しかし、事故直後の1年間は、BSS(IAEA, 1996
)並びにその他のWHOおよびIAEAの関連刊行物(WHO, 1988; IAEA, 1997, 1999)に記
載されているように、食材に関しての一般的アクションレベルが適用される。」

* 一般住民の年間放射染料限界(自然放射線量を除く)としてIAEAが勧告し、WHO加盟
国、ヨーロッパ委員会、FAOおよびWHOに受け入れられている1 mSVの10%。世界の平均
的な自然放射線量は2.4 mSV/年。

現在は、「事故直後の1年間」なので、BSSなどの記載を参照せよ、ということです。
そこで探してみると、ありました。370ページの大作:
International Basic Safety Standards for Protection against Ionizing Radiation
and for the Safety of Radiation Sources
http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub996_EN.pdf
これだとわかりにくいので、WHO SITREP NO. 13を参照すると、
Criteria for Use in Preparedness and Response for a Nuclear or Radiological
Emergency: General Safety Guide
http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1467_web.pdf
に行き当たります。この文書をもとにしましょう(最終校正前の文書です)。

この文書は、核・放射能の緊急時に適用されるものです。これは、1年当たり10ミリシ
ーベルトの放射線量に対応します(39ページ、平時の水質ガイドラインと計算が合致
しませんが計算にあたり何らかの要因があるのでしょう)。ちなみに平時はその10分
の1である1ミリシーベルトが限界線量です)。

43ページを見ると、ヨウ素131の線量レベルは

水1キロにつき3000(10**3)ベクレル

となっていることがわかります。日本政府の

水1キロにつき300ベクレル

という暫定基準が「厳しい・安全な」基準だというのは、IAEA/WHOの基準を起点とし
、また、「緊急時に適用されるものとしては」という意味であることがわかります。

これで、例えば、金町浄水場で放射性ヨウ素が見つかったことをめぐる報道で「規制
値は、乳児が1年間にわたり飲み続けた場合を想定し設定されており」(読売2011年3
月24日03時05分:http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110323-OYT1T00598.htm
)といった表現の意味がわかります。

3-2. 政府発表や報道はどうすればよかったか

一応、政府の暫定基準は1年を限度とする緊急時には妥当なものだと仮定し、国際基準
の3000ベクレルの10分の1の厳しいものだという点までは認めましょう。乳児に関する
日本政府の暫定基準100ベクレルというのも、安全を重視したものだとしましょう。

その上で、次のように言っていれば、今よりももう少し不安や猜疑心を少なくできた
と思います。

(a) 現在は原子力事故の緊急時なので、緊急時の基準を採用している。
(b) 日本政府の暫定基準は国際基準よりも安全を重視したものになっている。
(c) 緊急時の基準は1年を上限とする。
(d) XX浄水場で乳児の基準を越える量の放射性ヨウ素が検出された。
(e) したがって、乳児に飲ませてはいけない。大人は(子どもも)大丈夫である。
(f) 乳児の粉ミルクを溶くにはミネラルウォーターなどを使い、水道水は使わないこ
と。
(g) 母乳は・・・・・・?
(h) 万が一、水道水しか手に入らなかった場合、ミルクを与えずに脱水症状になる方
が大きな問題なので、やむを得ずの手段としてどうしてもというときには水道水を使
ってもよい。1週間までは大丈夫(3-3参照)だからパニックにならないように。
(i) 1週間以内に、乳児のミネラルウォーターを手配するから安心してくれ。

このとき、「専門家」が公に、「なーに、基準は厳しいし、年限は1年なんだからちょ
っと基準をオーバーしたヨウ素131を含む水を多少続けて飲んだって大丈夫だ」とは決
して言ってはいけない
と思います。それならば「基準」は何だったのか、基準は素人
が作ったものではないはずなのに、どうしてこういうことになるのか、いや、素人が
作った勝手なものなのか・・・・・・と、どんどん判断に迷うからです。

誤って・知らずに・あるいはやむを得ず、基準値を越えた放射性ヨウ素を含む水を乳
児に使ってしまったり、自分で(大人の基準値を越える水を)飲んでしまったりした
あとで、心配を払拭するために「この基準は厳しいから誤って・知らずに・どうして
もやむを得ず飲んでしまったとしても、あまり心配することはない」と事後的に慰め
ることと、事前にあるいはことの最中に、政府の暫定基準は国際基準より厳しいから
多少越えても大丈夫だ、と一般的なかたちで言うこととは決定的に違います。

「このほうれん草を1年食べても大丈夫だ」という原子力の専門家は、社会的な信頼維
持のメカニズムをきちんと学んで発言すべき
でしょう。

3-3. 安全性を考える

さて、テレビに出てくる多くの専門家は、大体、ICRP (1991)などに基づいて、線量の
基準などを定めているらしいのですが、それによると、平時の一般人の限界線量(自
然放射線量は除く)は1年に1ミリシーベルトで、この線量を1年受けたことによる発癌
リスクは、

0.000073

だけ増えると推定されています。約1万4000人(13,699人)に1人(計算あってますか
?)、そのためにガンになる人が出る、というわけです。

多いでしょうか? 少ないでしょうか?

(政府や専門家は、自分のことではなく、例えば1万4000人という集団を中心に考えま
すが、私たち一人一人は、自分が、自分の子どもが、そのうちの一人になるかどうか考
えます。後者の心配をしている人に、1万4000人に1人だからと言っても、特に原発事
故が起こっている中では受け入れにくいかもしれません。ただし、ここはどうにもな
らない点だと思います。医療の現場でも同様の選択に直面することはあります。この
薬を注射すると2万人に1人はショック死する恐れがあります、注射に同意しますか?
トカ。)

なお、以下の点も多くの人が考慮するでしょう。

「欧州緑の党が設立した欧州放射線リスク委員会 (ECRR) は2003年勧告の中で、セラ
フィールド再処理施設の小児白血病の発生率がICRPの基準からの予測値より100倍以上
多いと報告している。その上でホットスポット仮説を考慮すると現在のLNT仮説は内部
被曝や低線量の被曝を過小評価しているため、放射線防護基準はICRPの基準より少な
くとも10倍厳しくするべきだと主張している。」(Wikipedia「被曝」2011年3月24日
チェック)。


4. 全般的な放射線について

今度は全般的な点について整理してみます。

4-1. 出発点

出発点は、文部科学省の「日常生活で受ける放射線」です。
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/03/17/1303577_6_2.pdf

4-2. 年間の自然放射線量

この資料によると、世界での1人当たりの自然放射線(年間)は

2,400マイクロシーベルト/年

となっており、内訳は、宇宙から0.39、食物から0.29、大地から0.48、空気中のラド
ンから1.26となっています。内訳の数値は、合計すると2.42になりますから、ミリシ
ーベルト(1ミリシーベルトは1,000マイクロシーベルト)だろうと推測されます。

日本の平均は1,000マイクロシーベルトとされています。毎日新聞では1,500マイクロ
シーベルトという値を採用しています。
東北電力や中部電力の資料:
http://www.chuden.co.jp/energy/nuclear/nuc_hosha/nuch_sizen/index.html
http://www.tohoku-epco.co.jp/electr/genshi/shiryo/wastes/11.html
毎日新聞
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2011/03/23/20110323ddm002040062000c.html

なお、国内自然放射線の差(年間)(県別平均値の差の最大)は

400マイクロシーベルト/年

となっています。色々揺れがありますが、ここでは、

1,500マイクロシーベルト

を日本における自然放射線量の代表値として採用しておきます。

4-3. 一般公衆の年間線量限度

一般の人々の1人当たり線量限度(年間)は

1,000マイクロシーベルト

です。上記資料では、ここに「医療は除く」と書かれています。

メディアでは、X線1回よりはるかに少ないとか、どのくらい食べつづけてCTスキャン1
回分などと言っています。

例えば読売新聞オンライン3月22日の記事では、

「県によると、放射線量は午前8時10分、北茨城市で1.24マイクロ・シーベルト、高萩
市で0.213マイクロ・シーベルトを観測。午後3時には北茨城市が1.84マイクロ・シー
ベルト、高萩市が3.83マイクロ・シーベルトに上昇した。平常値に比べれば高いが、
県は胸部レントゲン(50マイクロ・シーベルト)の値などを例に挙げ、「健康影響は
ない」としている」

また、政府は

「「規制値の2000ベクレルのホウレンソウ1キログラムを毎日、1年間食べつづけてもCT
(コンピューター断層撮影法)スキャンで浴びる放射線量の約5分の1に過ぎない」(
枝野幸男官房長官)ことから、「ただちに健康に影響を及ぼす数値ではない。冷静な
対応を」と呼びかけた。」

などと報じられています。

けれども、もともと、医療行為で受けるX線やCTスキャンなどは本当はよくないけれど
やらざるを得ない
(だから医療行為なのであって、病気になったときに抗生物質を飲
むからといって普段から抗生物質を飲んでいてもOKというわけではない)ものであっ
て、それを持ち出した時点で、本来、医療行為でない状況での安全性を考える基準と
視点を乱してしまう
ことになります。

ちなみに、

胸のX線集団検診:50マイクロシーベルト/回
胃のX線集団検診:600マイクロシーベルト/回
胸部X線コンピュータ断層・CTスキャン:6,900マイクロシーベルト/回
東京=ニューヨーク航空機旅行(往復)は:200マイクロシーベルト/往復

です。

繰り返しますが、一般の人々の1人当たり線量限度(年間)は、平時において、

1,000マイクロシーベルト

です。

「CTスキャン1回分より少ない」という例を持ち出したとたん、それは「平時」ではな
い、ということが前提とされることになります。もちろん、原発事故で政府は原子力
緊急事態宣言を発令したのですから、緊急事態なのですが、

- 東京にいる人は、個人として生活が緊急事態下のものだと実感しているでしょうか

- 私たちには、1年を年限とする緊急時の放射能安全基準に従った安全性判断が適用さ
れるのでしょうか?


それが、私にはわかっていません。官邸の
「モニタリングデータについて」
http://www.kantei.go.jp/saigai/monitoring/index.html
では、「日常生活で受ける放射線」を最初に見るよう指示されていますが、この図で
は、
緊急作業時の上限なども示されており、実は「日常生活」を考えるべきか「緊急事態
」を考えるべきかわからないようになっています。

東京周辺の人は、多くの場合、現在の状況を今のところ日常生活の範囲と考えている
のではないでしょうか。だとすると、あくまで、

1,000マイクロシーベルト(1ミリシーベルト)

が基準であるべきです。

水のところでも言いましたが、何かの間違いで(本来起こるべきではないのですが)
、1,000マイクロシーベルト以上の放射線を受けてしまったとき、「まあCTスキャン1
回より少ないから」と自分や他人を安心させるのは仕方ない・妥当なのでしょうし(
自分でもそうすると思います)、また、用事や仕事で福島第一原発から30キロのとこ
ろに行くような場合には、胸部X線検診や東京=ニューヨーク航空機旅行などが目安に
できると思います(自分でもそうします)。

けれども、「平時」の社会的な措置や予防を考えなくてはならない段階で「CTスキャ
ン1回分より」云々を持ち出すのは、基準を歪曲する行為
です。国際線往復を持ち出す
議論も、自分の行動と社会的な措置や予防の考慮という二つの異なったことを混同し
たもので、こうした比較に基づいて安心だ、大丈夫だと声高に言われても、猜疑心が
募りがちになるのは避けられないように思います。

4-4. 一年は何時間か?

現在、文部科学省などが公表しているデータは、1時間当たりですから、年と時間と
を換算しなくてはなりません。1日24時間、1年365日で、

1年=8,760時間

です。

4-5. 時間当たりの基準は?

1人当たりの年間自然放射線量と年間線量限度を8,760で割ればよいのですから、

年間自然放射線量/時間 0.171 マイクロシーベルト
年間線量限度/時間   0.114 マイクロシーベルト


4-6. 現在の放射線量をどう判断するか

以上をもとに、現在の観測値を判断しましょう。データとしては、以下があります(
なお、b)は、右端に過去の平常値の範囲が記載されていますので、判断にあたり、5.
で出した値ではなく、そちらからどれだけ逸脱しているかを考える方がよいかもしれ
ません)。

a) 文科省モニタリングカーによる福島発電所周辺の測定結果
http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1304001.htm
b) 都道府県別環境放射能水準調査結果
http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1303723.htm
c) 原子力資料情報室(CNIC)の測定データ(東京都新宿区)
http://www.cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=1022
d) 東京大学環境放射線情報(暫定値)
http://www2.u-tokyo.ac.jp/erc/index.html

a)、b)などの情報へのリンクは、官邸のウェブサイト
http://www.kantei.go.jp/saigai/monitoring/index.html
に整理されています。

値が高くなっているとき、自然放射線量の変動なのか、原発に起因する増加が含まれ
ているのかをまず判断しなくてはなりません。b)を使うなら、平常値の範囲を参考に
、そこからの差を考えてみましょう。

例えば、さいたま市の2011年3月24日を0.120マイクロシーベルトとして、
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/03/24/1303987_2419.pdf
平時が0.031-0.060なので、真ん中の0.045を取ると、現在は、
0.075
だけ平時より放射線量が多いことになります。

0.075 x 8760 = 657

ですから、外で測ったものとして、1日24時間365日外にいても、余分な放射線量がこ
れだけならば、年間の平時線量を越えないことになります。なので、このまま続けば
とりあえず、平時の基準に照らしてさいたま市なら大丈夫、という判断が一応成り立
ちます。

逆に考えましょう。現在の状況が1年続くと考える場合、

1000 / 8760 = 0.114 マイクロシーベルト

くらい、過去の平常値の範囲よりも多くても「平時」と考えてよい程度と判断できま
す。

現在の状況は3カ月しか続かないと考えるならば、

1000 / 2190 = 0.457 マイクロシーベルト

くらい過去の平常値の範囲よりも多くても「平時」と考えてよい程度。

もっと「平時」したい場合は、外にいる時間に観測地を使い、屋内にいるときは、例
えばその半分にするとか3分の1にするとかにしてみることもできます。

どっちにしても、平時の放射線量基準

1年に1000マイクロシーベルト

を基準点に考えることを変えてはいけない
と思います。

機械的な基準であると言われそうですが、現在のようにことが起こった状況で、「CT
スキャン何回分」などと喩え(それも決して平時とは言えない喩え!)で語るよりも
、機械的に基準を当てはめたところを出発点にする方がはるかに妥当だと思います。
その方がはるかに、基準への信頼も保てるでしょう。

なお、以上4.で行った整理について、3点、注意してください。
- 年齢の要因を考えていません。乳幼児、成長期にある子ども、青年などはそれぞれ
ここでの基準に安全係数を掛ける必要があります。
- 内部被爆と外部被爆、放射線の違い、放射性物質の違いなどは考慮していません。
- あくまでこれは、放射線量は増えたものの、福島の状況が一気にひどくなったりせ
ず、小康状態を保っている中での判断の目安であり、福島の状況が急変した場合は、
別の判断をしなくてはなりません。


5. 安心とストレス

チェルノブイリ事故のとき、放射線による被害よりもストレスの方が大きかったとよ
く言われます。たぶん、そういう側面があるのでしょう。メディアでは「だから落ち
着いて」(普段通りに)という方向に行くのですが、落ち着き方は人それぞれです。

また、「冷静な対応を」と言われますが何が冷静な対応でしょうか。(少なくとも種
観的には)冷静にミネラルウォーターを買い占める人もいるのではないでしょうか。3-2
で提案したステップを踏まないである事態を前に「冷静に」と言われても、今何が起
きているのか、いつまで続くのか、どう考えるべきかの判断はつきません。

「1万4000人に1人」だから安全と言えるかどうかはわかりませんが、仮に「安全」だ
として、それで安心するかというと、人によって違います。ですから、「それでも不
安」という人は、上の計算で平時

1000 マイクロシーベルト

を、さらにその半分や3分の1で考えてみましょう。

専門家は、IAEAの勧告だとかそこに書かれた確率を持ち出して「そんな必要はない」
と言うでしょうが、個々人の安心(そしてストレス)はあくまで個々人のものですか
ら、その点では専門家が言っているからと無理に自分を納得させる必要はありません

し、納得しがたいこともあるでしょう(大体、原発は大地震でも大丈夫だと言ってい
たのも専門家ではなかったでしょうか)。

それから、ストレスがよくないのは確かなので、仮に無理に千葉市で日常生活を送っ
てストレスを溜め込むよりも、一旦鹿児島に避難できれば避難すればよい、
と思いま
す。もちろん、避難できるのはぜいたくな立場の人ですので、できれば、避難して余
裕が出たら、被災者の手伝いをするとか何らかのかたちで自分と同様のストレスを溜
めている人の手助けをするとか、乳幼児のいる家族の支援をするとか、
色々なことを
考えることができます。

今、多くの人が「がんばる」と言っていますが、こんなときこそ、同じことをするな
ら、がんばらないでする方がよい、そのためにどうすればよいか、自分の安心と他の
人への配慮は対立するものではなく、むしろ相性のよいものだと考えるほうが楽なだ
けでなく効果的・効率的でもある
ように思います。


6. ほかに

これを書いていたら、福島第一原発で働いていた方3名が被爆したとのニュースがあり
ました。早くよくなりますよう。

「隠された被曝労働〜日本の原発労働者〜」
http://video.google.com/videoplay?docid=4411946789896689299#


日本の原発労働者の現実を伝える。英国チャンネル4制作ドキュメンタリー(字幕付)



ラベル:原発震災
posted by nfsw19 at 23:30| ロンドン | Comment(0) | TrackBack(0) | メール引用 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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