『Xファクター』である。
2005年以降の連続4年間、イギリスのクリスマスチャートのナンバー1は『Xファクター』優勝者のデビュー曲と決まっていた(らしい)。一昨年まではそんなに熱心に見ていなかったので実はよく知らない。でも、去年異変があったのは知っている。ネットユーザーの反乱があった。
『Xファクター』の決勝はクリスマスウイークの前週末に放送され、その時点で、すでにふたりの決勝対戦者のデビューシングルができあがっている(決勝で歌う曲だ)。優勝が決まるとその夜のうちにダウンロード配信による販売が開始され、翌週早々に店頭でCDを買い求めることができるという手回しの良さだ。ここまでしてこの週のチャート1位になれなかったら、そりゃ事件だ。
去年、事件が起きた。
優勝したジョー・マケルダリーの『The Climb』は発売したクリスマスウィークには2位に甘んじ、トップの座に立ったのはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの『Killing In The Name』だった。クリスマスチャートウイークの販売数、『The Climb』が45万、『Killing In The Name』が50万2000と5万以上もの差を付けての圧勝だった。(翌週には『The Climb』が1位になった)
若いカップルがフェイスブックで始めた「クリスマスチャートを『Xファクター』に支配されるのはこりごりだ」というキャンペーンの結実だったのだが、この動きが盛り上がり始めたころに『Xファクター』生みの親でジャッジのサイモン・コーウェルが「ばかばかしい」と評したのが最初はタブロイド、続いて高級紙やテレビのニュースショーなどで紹介され、火に油を注ぐ結果になったのが皮肉だ。(後にサイモンは完敗を認め、デモクラシーだからねと語っている)
この1位は異例尽くめだった。
第一に『Killing In The Name』は1992年発売のレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのデビューシングルなので店頭に実物がない(1992年当時はUKチャート最高25位)。そのため、50万を越える販売数のすべてがダウンロードによるものという前代未聞の事態が発生し、これは後にギネスレコードに認定された。
第二にはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(RATM)というバンドと『Killing In The Name』という曲そのものが、音楽業界のなかで、おおよそクリスマスチャートとは対極に位置する点だ。だからこそ、キャンペイナーはこの曲を選び、人々がそれに共感/協力したとも言える。もちろん、単におもしろがってというだけの人も多いだろうが。
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RATMは(知ってる人には説明不要と思いますが)アメリカのラップメタルのバンドで、曲の激しさもさることながら、(特にギターのトム・モレロの)極左とも言えるほどリベラルで確信犯的な政治姿勢/政治活動で知られている。バンド名が雄弁に語るように、RATMが敵とするのは人々を蝕む企業資本主義や西欧の文化帝国主義などで、ある意味では『Xファクター』がその代表とも言えるような文化だ。
『Killing In The Name』は変則的なリズム展開と、ほとんど変態とも言えるトム・モレロのなまめかしいギターとからむように数行のリリクスが激しく繰り返される曲で、軍隊の中の白人至上主義者を告発する内容のプロテストソングだ。その詩は短いけれど軍隊と戦争の本質をついていて、すべての戦争の背景にレイシズムが横たわることをシンプルに力強く伝える。
そのうえ、オリジナル盤では10回以上もFワードが連発されるのでクリスマスチャートでトップになっても放送できないという、ファミリーマター満載の『Xファクター』の対抗としてこれ以上は望めないほどの条件を備えている。
RATM -Killing In The Name
↑ この動画はブロックされてるかも。その場合はこちら↓をどうぞ。(NOV 2012)
http://www.youtube.com/watch?v=8de2W3rtZsA
歌詞はこちらに。
対訳付きが知恵袋に上がってました。いい訳です。forcesを警察と訳しているところが残念ですけど(この場合のforcesはUS Forces米軍です)。(NOV 2012)
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1227315777
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このアンチ『Xファクター』キャンペーンが成功したもうひとつの理由にチャリティとの連動がある。
イギリスでは有名無名の人々による音楽を媒介にしたチャリティキャンペーンが年がら年中行われているが、クリスマスが近づくとチャリティファクターはいっそう重要になり、スター総出演で毎度膨大な寄付を集めるBBC恒例のチルドレン・イン・ニードをはじめ、テレビも新聞も店頭も学校もそこらじゅうがチャリティだらけになる。
『Xファクター』ももちろんその例にもれず、ファイナリスト全員が参加したチャリティシングルを発売し、莫大な金額を集める。去年は子ども病院のチャリティで今年は傷痍軍人のリハビリセンターのチャリティだ。
2009年チャリティシングル
The X Factor 2009 - X Factor Finalists: You Are not Alone
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この動画がブロックされていた場合はこちらをどうぞ(NOV 2012)。
http://www.youtube.com/watch?v=pbVXpxtcrpg
2010年チャリティシングル
X Factor Finalists perform Heroes - The X Factor Live
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「RATMをクリスマスNO.1に」キャンペーンは『Killing In The Name』のダウンロードを呼びかけると同時に、ホームレスを助けるチャリティの「シェルター」への寄付も呼びかけ、7万ポンドも集めてしまった。みごとであった。
RATMはお礼として今年フィンズベリーパークで無料野外コンサートを開き、その後久しぶりのヨーロッパツアーを行った。こちらからコンサートのオーダーと、それぞれの動画(コンサートのときのものではないですが)を見ることができるのでぜひお試しを。
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で、今年もフェイスブックなどで『Xファクター』優勝者のシングル以外の曲をクリスマスNO.1に」キャンペーンが始まっているらしいのだが、候補乱立でこれじゃあ負けるんじゃないの、という気がしないでもない。
そのうちの1曲が有機酪農品ブランド、ヨーバリーのコマーシャルソング。ヨーバリーは『Xファクター』のスポンサーのひとつで、そもそも『Xファクター』の番組中に流れたこのコマーシャルが話題になり、ロングバージョンが発売になったという話だ(息子経由の情報です。裏は取ってません)。はっきり言ってとてもいい。
ヨーバリーTVCM
Yeo Valley Advert - Official Video
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とは言え、今年の『Xファクター』、わたしはエセックスから来たペンキ塗りのマット・カードルにめろめろで、かれが優勝したらデビューシングル買っちゃうなあ、たぶん。まだプロの手にかかる前からこの美声、この完成度の高さ。非常に控えめでローキーなのも好感が持てる。これは、オーディション以前に「普通の生活」をしていたことと並んで、『Xファクター』で優勝するための非常に重要な要素だ。
マット・カードルのオーディション
マット・カードルのブートキャンプ
『Xファクター』優勝の条件
1)歌がうまいこと
2)普通の生活を送っていたこと(肉体労働系だとなおいい)
3)控えめ(あるいは自分に自信なく)で地味なこと
もうひとつ、社会的弱者であることという条件もあり、マットにはこれはないのでその点でシングルマザーのレベッカに比べて少し不利。
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