「新世代の労働党」は、「ニューレイバー」に変わる労働党のキャッチフレーズとして今年の党大会でエド・ミリバンドが打ち出したものだが、この「ジェネレーション」を文字通り、世代と理解するわけにはいかないところがややこしいかも。確かにエドは40歳と若いが、首相/保守党党首のデイヴィッド・キャメロンも、副首相/リブデム党首のニック・クレッグもまだ43歳だ(野党時代、キャメロンは30代で、クレッグは40歳で党首になった)。
僅差で党首選に敗れて影の内閣を去ることに決めた兄のデイヴィッド・ミリバンド(またデイヴィッド!)も45歳で、年だけで言えば、同じ「世代」に属していると言っていいだろう。ちなみに、党首選を戦った5候補は50代のダイアン・アボットを除いてみな40代で、影の蔵相になると噂されているエド・ボール(また、エド!)が43歳、アンディ・バーナムなんてエドより数カ月年下だ。
ついでに言えば、党内最左派の議員の一人(で女性で黒人)のダイアン・アボットはブレア&ブラウンのニューレイバーとはもちろん折り合いが悪く、ずっとバックベンチャーだったが、他の4人は閣僚経験者(フロントベンチャー)だ。
そんなわけで、この「ジェネレーション」は年ではない。
ひとつの尺度としては、イラクに対して攻め入るか否かを議決した2003年3月18日に議員であったか否か、議員であった場合はどう投票したかが決め手になるかもしれない。なにしろ、エドのニュージェネレーション・レイバーは「ニューレイバーの業績はすばらしかった。でも、もうやめよう」であり、「ニューレイバーは様々なすばらしい成果を残した。でもイラク戦争は間違っていた」なので。
この「イラクものさし」を使って世代を分けた場合、ポスト・イラクの2005年当選組のエド・ミリバンド、エド・ボール、ニック・クレッグは「新世代」に入り、反対票を投じたアボットも新世代だ。リブデムは党全体が反対だったのでクレッグだけでなくみな新世代になる。デイヴィッド・ミリバンドとアンディ・バーナムとキャメロンはすでに議員であり、参戦に賛成している。(正確には、エドは議員ではなかったが議員をバックアップするチームのメンバーであり、この議決のころはササバティカルでアメリカにいた)
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先週の土曜日、労働党の党大会でエドが党首に決まったあと、保守党には盆と正月がいっしょに来て、労働党はまるで葬式のようだった。次の選挙は戦わずして勝負がついたと誰もが思っていた。わたしはデイヴィッドでなければ誰でもいい派(anybody but David)であり、だれかと言えばエドかな〜派だったので、驚きもしなければ不幸でもなかったけど、次の選挙での保守党が勝ちは決まったかもとは思った。
月曜日に近所のニュースエージェントに新聞を買いに行ったら、顔見知りのレジのおにいちゃんから「今日の政治はどうだい?」とあいさつが来たので、労働党の党首選が面白かったねと答えると、結果は意外だったろうと言う。そこで、全然意外じゃなかったよ、わたしはエドを応援してたからねえと答え、ひとしきりディヴィッド・ミリバンドの悪口を言って帰って来た。
ともかくわたしとしては、ニューレイバー風見鶏のデイヴィッド・ミリバンドが党首にならなくてそれだけでもハッピーだったのだが(エド・ボールもアロガントなので嫌いだけど)、アゲインスト・オール・オッズで党首になったエドのスピーチがあまりにも素晴らしかったので、忘れていたへそくりが出て来たみたいな喜びを感じている。
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エドの労働党党首就任スピーチ(文字化と映像)
http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-11426411
エドは経験がなさ過ぎということばかりでなく、左に寄り過ぎと見られていて(しかもユニオンの票で逆転勝利した)、労働党内でも党首として能力を疑われていた。だから、党首になった直後からまず内部の信頼を得るために、党大会のフリンジミーティングを分刻みで回って党員と直接話すことにつとめていたと伝えられている。
だから、ほんとに時間がなかったはずだが、党首選に勝利した3日後に行われたこの党首としての初のメジャーなスピーチを、スピーチライターの手を借りずに自分で書いたそうだ。(スピーチのトランスクリプトは冒頭の一部が欠けているので、お時間があればぜひ映像を見てください。1時間弱あります)
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あとで書き足そうと思って非公開にしてましたが、タイミングを逃してしまったのでとりあえずアップします。以下、付け足しとして知人のブログ(労働党の党首選ンについてのエントリ)へのコメントを転記しておきます。
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エドのスピーチすごく良かったじゃないですか。近年の労働党党首のスピーチの中では(って、つまりブレアとブラウンですが)出色の出来でした。内容的には「思わず党首になってしまったのでまだ政策できてねえなあ」な感じでしたが、なにしろ、政治家の口からこんな言葉が出てくるかと思うほど「誠実」でした。そのせいで聴衆の拍手も嘘くさくなかった。笑いと涙のタイミングもよかったし、引き込まれて聞いちゃいましたよ〜。
とは言え、これも前日のデイヴィッドの「負けました、弟をよろしく」スピーチがとても良くて、きっと心の中では怒りやら後悔やらでぐちゃぐちゃだったでしょうが、そこをぐっと押し殺してまで、でこぼこになった労働党の畑を平らにしようという努力がうかがえました。そのうえにエドが、いろいろありましたが、またみんなで頑張って政権をとりましょうと言ったわけで、こんな兄弟を育てたなんて、きっと親が立派だったんだなあとしみじみ。
それに引き換え、民主党の党首選の戦いもさることながら、後始末のでたらめさには心底がっかり。自民党から政権を奪えるのは小沢一郎だけだと思っていたので以前は小沢を応援してましたが、なんだかなあです。菅直人がすばらしいってわけじゃないですが、党首選に敗れたからには党を二分したものの責任として一度ひとつにまとめなおさないと。マッカーサーじゃないですが、日本の政界は12歳の少年か、まだ、と思ってしまったできごとでした。
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ミリバンド・オブ・ブラザース
チャンネル4のデジタルチャンネル「more4」では、労働党党首選(党大会開幕)前夜にミリバンド兄弟を題材にしたドキュドラマ『ミリバンド・オブ・ブラザース』が放送された。タイトルがband of brothersの駄洒落だってことからもわかるようにドラマ部分はコメディ。
名高なマルクス主義政治/経済学者の父と活動家の母、両親ともに子どもの頃にナチスの迫害を逃れてイギリスに移民した東ヨーロッパのユダヤ人。左派の政治家や活動家が集うある種政治のサロンでもあった一家の家で一種の英才教育を受け、政治ギーク(オタク)として成長した兄弟が労働党に入党し、やがて議員になって党首選に立つまで話だ。
ミリバンド・オブ・ブラザース(日本からも見られるといいのですが)
http://www.youtube.com/watch?v=pLEOzaY8LKE&has_verified=1
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