特に労働者階級と貴族階級について教えてください。
イギリスの階級は大きく3つに分けられます。
王族や貴族を含む上流、専門職と企業の重役クラスの中流、中間管理職以下の会社員と職人などの労働者です。中間管理職以下の会社員や銀行員をロワーミドルとして中流の下位に組み込む場合もあります。
上流階級は広大な土地を所有する有産階級で人口は国全体の数パーセント(2パーセント程度だったと思いますが正確な数字は忘れました)、不労所得があるために賃労働の必要がありません。とは言え、土地は長男がすべて相続するので次男以下の男子は建前上は仕事をする必要があり、多くが大学に行って職に就きます。士官学校に入る場合もあります。女子は一時的に職に就くか、フィニッシングスクールに行ってから上流家庭に嫁ぎます。女子の場合、教養は必要ですが学位は不要なので大学にはあまり行かないようです。
家屋敷の維持(固定資産税を含む)にはそうとうなお金がかかるので管理しきれず、ナショナルトラストに寄付して管理をまかせる家も多いようです。その場合、ナションルトラストは寄付された屋敷や庭園を有料で一般公開したり寄付を募るなどして、管理にかかる費用を賄います。ナショナルトラストに寄付しない場合は自力で事業を興し、やはり有料で一般公開するなどして管理にかかる費用を捻出する場合もあります。一般公開されている屋敷の一部を非公開にして、屋敷の元の持ち主(貴族)一家が住んでいる場合もあります。
*上流階級の屋敷の一般公開についてはこちらをお読みください。
中流階級は原則的に高等教育を受けた専門職(医師、法律家、政治家、聖職者、大学教員など)と企業や大規模小売業の上級管理職ですが、銀行員や中間管理職以下のホワイトカラーをすべてロワーミドル(中流の下位)とする場合もあります。ただし、ここまで含むとアッパーミドルとロワーミドルの差が大き過ぎるので生活実態には合わないように思います。
労働者はいわゆるブルーカラー(工場労働者や職人など)や店員だけだと思われがちですが、給与を得て働く中間管理職以下のホワイトカラーも労働者とするほうが実状にあっていると思います。生活実態はほとんど変わらないので。とは言え、このあたりの分類はあいまいで、あいまいであるがゆえに流動性が高く、流動性が高いがゆえに(比較的安定した)アッパーミドルより階級意識が強く、明らかな労働者を馬鹿にする傾向があるように見えます。
上流階級はほとんど動きませんが、労働者階級と中流階級のあいだには、そんなわけでかなり流動性があります。労働者から中流になるもっとも有効な方法は高等教育を受けることで、労働者の子女が大学以上の教育を受けて専門職につくことで中流階級に移ることが可能になります。逆に、中流から労働者に移ることはまれなので(教育のある親はたいがい子どもにも高等教育を受けさせるので)、年々中流層が膨らむ傾向があります。
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労働者階級の出身者が歌手やスポーツ選手になって大金持ちになったとしても、階級は資産のあるなしだけで決まるわけではないので本人の代では中流にはなりません。こういう人たちを最近はセレブリティとう別枠の階級としてとらえるようです。日本の人には(わたしにも)理解しにくいですが、労働者階級出身者の自分の階級へのこだわりと愛着はたいへん強く、本人はいつまでもワーキングクラス・ヒーロー(労働者階級のヒーロー)と呼ばれることを好むようです。
しかし、たいがいは子どもを私立学校にやり、高等教育を受けさせて中流への道を歩ませます。イギリスは大学が120ぐらいしかなく、特に上位校は入るのも出るのも難しいので高等教育に価値があります。
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歴史的には階級はまず二つから始まり、王族の下に広大な荘園をもつ貴族がいて、その貴族の農地を耕す農民と職人がいました。その後、貿易業を含む商業で成功した人や貴族の子息のうちの次男以下が高等教育を受けて職に就いて中流階級(ジェントリー)を構成するようになり、産業革命のあとはこれに事業主が加わります。農民や職人の多くは労働者として工場で働くようになり、農民や職人を含む労働者階級が生まれました。
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