イギリス国民はなぜそんなにローマ法王を嫌いますか?
イギリス人が今回、ローマ法王を国賓として招くことに反発していたのは、ローマ法王やカソリック一般に対する反感ではなく、現法王ベネディクト16世に対する反感が強いです。かれの言動が単に超保守的であるだけでなく、イギリスが国として推進しているリベラルな文化を否定する点が多々あるからです。
例えば、イギリスでは現在、ホモセクシュアルな関係は法的に認められており、同性愛のカップルにはシビルパートナーシップという方法で男女の結婚と同等の権利が認められていますが、現法王はこれを批判しました。また、女性聖職者を要職に就けないなど女性を一段低く見る性差別的な部分も嫌わています。
さらに、今回の訪英直前には法王の側近の枢機卿がイギリスの人種の混じり具合を差して第三世界のようだと発言し、大反発を食らいました。イギリスは大戦後、国是として多文化主義をとっており、この発言はイギリスの国としての在り方そのものを否定すると見られたからです。
また、日本ではそれほど知られていないかもしれませんが、キリスト教圏ではたいへんな問題になっていることに、カソリック教会の司祭が信徒の子どもたちに性的な虐待行為を行っていたというスキャンダルの発覚があります。ローマ法王庁がなかなかその事実を認めなかったり、また現法王が当事者の聖職者をかばったりしていました。今回の訪英中、法王は公のスピーチでその非を認め、虐待の被害者のうちの5人と非公開で面会し、深い遺憾の意を示したそうです。
ほかにも、現法王が産児制限を認めない(快楽のための性行為の否定)からコンドームの使用を奨励しないため、望まない妊娠を防げないばかりか妊娠しても堕胎できず、また、特にアフリカ諸国でのHIVの蔓延を助長していると批判されています。
うわ〜、どっさり。これじゃ嫌われるのも無理ないですね。
とは言え、今回の訪英をテレビで見るにつけ、あの高齢で毎日いくつもの公式のスピーチやセレモニーをこなし、移動も多く、なんとなしにお気の毒にも感じました。国賓待遇の招待でなければ行事の数はもっと少なかったでしょうし、カソリックのコミュニティだけで楽しく過ごせただろうにと。
つまり、反発必至のイギリスにあえて国賓として火中の栗を拾いにきたってあたりに、法王庁の危機感の表れを感じたりもしました。存続の危機を感じてるんじゃないでしょうか。
選択肢がなかったかもしれません。いつか必ず国賓として来なければならなかった。なぜならエリザベス女王はバチカンを国家元首として公式訪問しています。法王が答礼するのが国家間の外交儀礼です。
ああ、そうですね。法王もクイーンもお年ですから、タイミングを逃すと答礼しそこなっちゃいます。いまを逃して他になかったのかもしれません。
それにしてもイギリス側の演出はみごとだったと思います。どの式典でも必ず有色人種の信徒や司祭が重要な役を与えられて壇上にいたり、ほとんどが黒人の子ばかりの小学校の合唱隊があったりして、多文化社会を視覚的に見せてました。
また、スコットランドで沿道から法王に祝福された最初の赤ん坊の親がポーランド移民であったことも、偶然とはいえ良かったです。イギリスも不況のせいで徐々に移民に不寛容になりつつありますが、改めてた多文化社会の深さを見せられた思いがしました。
そんなこんなで、イギリス社会にとっては、法王という鏡を通して、改めてイギリスという国の多文化主義の価値を考え直す良い機会になったのではないかと思います。
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