この質問に対して以下のような内容の回答が寄せられた。回答の主旨は、和平が成立しない理由をユダヤ資本だのロックフェラーだのに帰すのは陰謀論のヨタ話であり、根本的な原因は和平を妨げるイスラム原理主義勢力にある、というもの。
エジプトのサダト大統領は1977年にイスラエルのメナヘム・ベギン首相の招きでエルサレムを訪問し、イスラエル・エジプト間の和平交渉を開始し、翌1978年アメリカのカーター大統領の仲介のもとキャンプデービッド合意にこぎつけました。しかし、1981年サダト大統領は第四次中東戦争開戦日の勝利を祝う戦勝記念日のパレードを観閲中に、イスラム復興主義過激派のジハード団に所属する兵士により暗殺されました。
アラファトPLO議長は1993年にクリントン大統領の仲介によるオスロ合意でイスラエルとの和平を成立させ、イツハク・ラビン首相と会見し、翌1994年、和平協定に基づいてパレスチナ自治政府が設立されるとパレスチナに戻り、1996年の選挙でその長官(大統領)に選出されました。しかし、和平に反対するハマースら非PLO系の組織を主流とするインティファーダ運動が起こり、イスラエルとパレスチナの対立は決定的となり、アラファト議長はこの混沌とした情勢においてかつてのように強い指導力を発揮することができず、一方ではテロの制止に失敗してパレスチナ人の支持も失い、また一方ではイスラエル政府からの信頼を失っていきました。
このように中東和平には過去何回かの機会はありましたが、ことごとくイスラム原理主義勢力により頓挫させられ、紛争が継続しています。
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これを受けてのわたしの書き込みは以下の通り。
通りすがりの者です。この質疑応答(あるいは議論)に加わるつもりはないのですが、回答中にだいじな点が抜けていることを指摘させてください。
イツハク・ラビンは、おっしゃる通り、1993年にはオスロ合意に、1994年にはヨルダンとの平和条約に調印し、その功績により、アラファト、シモン・ペレスと共にノーベル平和賞を授与されましたが、1995年11月、オスロ合意を支持する大規模な市民集会と行進に参加し、その場で銃弾にたおれました。
ラビンを暗殺したのはオスロ合意に反対するオーソドックスジュー(もっとも敬虔なユダヤ教徒)の過激派の青年で、イスラム原理主義者ではありません。
ラビンの死後、イスラエルの和平運動は支柱を失って低迷し、結果としてパレスチナとの和平交渉が頓挫しています。
また、「和平に反対するハマースら非PLO系の組織を主流とするインティファーダ運動が起こり」というのも、経過が事実と違うように思います。
インティファーダは第一次と第二次があるのはご存知だと思いますが、そもそも対パレスチナに関してはたいへんな強硬派であったラビンがその姿勢をかえ、パレスチナとの和平交渉に転じたのは第一次インティファーダ(1987--1991ピーク--1993終結)を目撃したのがきっかけです。このインティファーダを機にイスラエル国内には和平賛成派が増え、また兵役拒否も増加し、最終的にオスロ合意につながったのですから、第一次インティファーダは抵抗運動としては一定以上の成果をおさめたと言っていいと思います。
ご指摘のインティファーダは第二次をさすと思いますが、きっかけを作ったのはイスラエルの当時の外相(後の首相)のシャロンで、エルサレム郊外(イスラエルが占領するパレスチナ領)にあるイスラムの聖地アル・アクサモスクに、パレスチナ側の反対を押し切って1000名の武装した側近と共に入場しました。このモスクは過激なユダヤ組織に爆破された過去もあり、また、モスクやその周辺では第一次インティファーダのときなどに多数のパレスチナ人がイスラエル兵の犠牲になっています。つまり、宗教的に重要なだけでなく抵抗運動にとっても聖地のような場所でした。そこに武装した兵士とともに用もないのに入場するとは、シャロンの挑発行為ととられてもしかたないのではないでしょうか。
また、アラファトがパレスチナ人の支持を失ったのは、第一にラビンの死によってイスラエル側の和平の交渉窓口が閉じられたことと、前述のシャロンの暴挙に対して強い抵抗の態度をとれなかったことによります。また、2001年からはイスラエル軍によってラッマラーの首相府に幽閉されるかたちになり、何かをしたくても手も脚も出ず、結果としてハマスがガザで伸長するにまかせるしかありませんでした。また、アラファト自身の経済的な腐敗も原因と言われています。
なにもかもユダヤの陰謀のせいにするのは確かにあまりに幼稚ではありますが、知らずにか、あるいは忘れてか、必要な情報を欠いて歴史を単純化するのもあまりほめられたことではないと思います。
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パレスチナ問題は領土問題。ひとつの土地をふたつの国家(民族)が分け合うか、ともに住むか、独占するかの問題。ここから外れた議論(宗教、陰謀その他)は無意味であるばかりでなく有害。
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