<現代では先進国のほとんどが
死刑を廃止していますが、
キリスト教も何らかの関係があるのでしょうか?>
死刑制度を廃止したイギリス在住です。
イギリスで死刑制度が廃止されたのは、冤罪による死刑の実施に対して国中がショックを受けた結果であると聞いています。
1949年にロンドン西部ノッティングヒルで発生した殺人事件で、女性とその娘が殺され、夫が犯人として逮捕されました。かれが挙動不審で、また取調中に一度は殺害を自供したりなどしたため、公判では犯行を否定したものの、「(後に真犯人であったことがわかる)証人」による虚偽の証言などもあり、有罪が確定。翌年、絞首刑が執行されました。男の名前からエヴァンス事件として知られています。
それからまもなく、真犯人が別の殺人(連続殺人、死体遺棄)で逮捕され、エヴァンスの一件は冤罪であったと判明しました。
ちょうどこの頃、別の殺人事件(殺人、殺人未遂、強盗、強姦)で、やはり物的証拠が乏しいにもかかわらずある男が有罪の判決を受けました。直前にエヴァンス事件の冤罪が確定していたので、この件は国中の関心を集め、死刑執行停止の嘆願署名が何万筆も集まりましたが、絞首刑が執行されてしまいました(この件は後にDNA鑑定が捜査に導入されるようになってから、墓から死体を掘り出して鑑定、冤罪でなかったことが判明しています)。
この件をふまえて国中で議論がおき、結果、冤罪の可能性を100パーセントつぶせない以上、すべての犯罪に対して死刑を最高刑をすることをやめようという機運が高まりました。そして1965年に死刑執行停止(モラトリアム)の時限立法が成立し、5年後、正式に死刑廃止になりました。
以上のいきさつからは宗教との強い関係は特に見いだせません。感情的な面と理論的な面の両方から、国民的な話し合いがもたれたことが死刑廃止の道筋を開いたように見えます。
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最近の日本の事件。幼い子ども二人を部屋に閉じ込めて餓死させた母親に対して、ネットでは死刑を望む声が多い。おそらく「ワイドショーのオピニオン」もそうなんだろうと想像する。
確かに、実行したことは非人間的で許されるものではないけれど(死んでいった子どもたちのことを考えると怒りとやりきれなさに胸を突かれるけれど)、そこに至った彼女の心理に、わずかなりとも共鳴する部分を見出する母親は少なくないのではないだろうか。
そうする前に彼女はどこにも助けを求めることができなかった。相談する場所、ちょっとした息抜きのために子どもを預けられる場所、愚痴をこぼす場所はなかったのか。頑張っているねと彼女をほめてくれる人はいなかったのか。社会制度の不備、社会の不寛容さが、彼女の子どもたちを母親に見放され(殺され)た子どもにし、彼女を子どもを殺す母親にしてしまったのではないか。
80%以上の人が死刑制度の継続を望んでいるという日本のことをほんとうにこわいと思う。想像力か共感力かその両方かが被害者に対してのみしか使われず、加害者に同情を寄せたりしようものなら、それだけで人非人扱いだ。
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どんなに突出したひどい事件でも、またとない、あるいは似たもののない(ように見える)特殊な事件でも、事件の原因を見つけることはとてもだいじだ。その事件が起きた原因は何かを公判を通じて見つけ出すことができれば、なぜ防げなかったか、類似の事件が起きないようにするにはどうすればいいかについて答えを出すことができる。
こういう、たとえ時間がかかっても辛抱強く「原因/動機を見つけ出すための裁判」が実行されれば、ほとんどの犯罪にはなんらかの社会的原因が見つかるはずで、犯行に及んだ人ひとりがその犯行の責任を遭うべきかどうかがはっきりする。
裁判員制度が始まって、裁判の時間短縮を促進するために、非公開の裁判前手続きが導入された。裁判員制度の導入がきまったのでそうせざるを得なかったのか、あるいは、もともとそうしたかったからこの制度が導入されたのか。いずれにせよ、裁判員制度という見せかけの「国民に開かれた裁判」を実現するために、それ以前の段階が隠されてしまった事実は重い。
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