実際の事件に関するものではなく、創作のものでお願いします。
村上春樹の『1Q84』がそうですね。
オウム裁判を10年間傍聴して、被害者側と教団側の両方へのインタビューを2冊の書籍にまとめ(『アンダーグラウンド』『約束された場所で―underground 2』)、それらとのかかわりを小説に昇華(消化)したのが『1Q84』でしょう。
『1Q84』には、オウムがモデルとおぼしき宗教団体以外にも、実在する団体を原型とする集団がいくつかでてきますが、これらも研究の過程で小説に取り込むことにきめたのかしら、などと考えながら読みました。
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実在する団体をモデルにしたと思われるのは、青豆の両親が信仰する新興宗教(ものみの塔=エホバの証人)と、ふかえりの父親が大学を追われた後によりどころとした酪農コミューン、タカシマ塾(ヤマギシ会)。他にもちらちらあるけれど代表的なのはこの二つ。
ヤマギシ会は1960年代には理想的な共産社会ともてはやされ、学生運動に挫折した元活動家を多数吸収。ベトナム戦争時にはべ平連(ベトナムに平和を!市民連合)が脱走を呼びかけ、それに応じた米兵(脱走兵)を長期間かくまっていたりなどした(らしい)。80年代以降は循環型社会の理想型とも言われ、海外にも進出したが、中で育てられた子どもの教育環境などをめぐって訴訟も起きている。ドイツではカルトに指定されている。
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『1Q84』の中のタカシマ塾の説明。ふかえりが身を寄せているエビスノ先生を訪ねた天吾に、先生がふかえりの父親について語る場面。
「深田保というのが父親の名前だが、彼は大学を離れたあと、(略)タカシマ塾に入った。(略)深田の家族も行動をともにした。(略)タカシマ塾のことは知っているね?」
「おおよそのところは」と天吾は言った。「コミューンのような組織で、完全な共同生活を営み、農業で生計を立てている。酪農にも力を入れ、規模は全国的です。私有財産は一切認められず、持ち物はすべて共有になる」
「そのとおりだ。深田はそういうタカシマのシステムにユートピアを求めたということになっている」と先生はむずかしい顔をして言った。「しかし言うまでもないことだが、ユートピアなんていうものは、どこの世界にも存在しない。錬金術は永久運動がどこにもないのと同じだよ。タカシマのやっていることは、私に言わせればだが、何も考えないロボットを作り出すことだ。人の頭から、自分でものを考える回線を取り外してしまう。(略)」 BOOK1 P221〜222
ふかえりの父親はこのコミューンに理想を求めて入ったのではなく、共に入塾させた元活動家学生たちに農業を学ばせるためで、2年ほど塾で生活したあと独立した、と先生の説明は続く。
「タカシマはたのしかった」とふかえりは言った。
先生は微笑んだ。「小さな子どもにとってはきっと楽しいところなんだろう。でも成長してある年齢になり、自我が生まれてくると、多くの子どもたちにとってタカシマでの生活は生き地獄に近いものになってくる。自分の頭でものを考えようとする自然な欲求が、上からの力で押しつぶされていくわけだからな。それは言うなれば、脳味噌の纏足のようなものだ」 BOOK1 P223
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