2010年05月08日

[知恵袋] イギリスの自民党は日本のどの政党に近いですか?

イギリスの労働党と保守党と自由民主党は日本の政党で言えばどの党に近いんですか?

いずれも、似ている政党はありません。

左右でざっと色分けすると、いまの保守党は右派あるいは中道(のときもありました)。いまの労働党は中道左派(だとは言いがたい部分もありますから)中道右派かも(負けたので変わると思います)。自由民主党は結党からずっと中道左派です。

自由民主党結党のいきさつについて詳しくはこちらをお読みください。

回答からは少し外れますが、イギリスというとどうしても階級のことを外せないかたがいらっしゃるので書き足します。

もともと保守自由の二大政党ができたときには、それぞれの政党が利益を代表する集団がありました。とは言え、保守党も自由党(自由民主党ではなく)も有産階級、いわゆる上流(貴族含む)といまでいう中流(当時は中流というタームはありません)の利益を代表することに代わりはありません。選挙権があるのがそういう人たちだけだったからです。

やがて産業革命がおき、製造業が産業の中心になると労働者の集団が生まれます。普通選挙が始まり、労働者の利益を代表する政党として労働党が生まれます。

普通選挙というのはだれでも投票権があるということです。労働者も労働者でない人も、金持ちも金持ちでない人もだれでもひとり1票です。もしも保守党が上流階級を基盤とした政党なら、いまのイギリスでは絶対に政権政党にはなれません。同様に、もし自由党が中流階級の利益を代表するなら、これほど長いあいだ、低迷していた理由がわかりません。また、イギリスの政権政党はほぼ常に労働党でなければいけないことになります。

つまり、イギリスの政党はもともとはある特定の集団の利益代表として誕生してはいますが、いまだにコアな支持層が同じということはありえません。それじゃ生き残れませんから。この、政権を取らんがための党方針の転換の歴史が、イギリスの政党に特徴的な一面だと思います。二大政党制だからこそ起きる、ねじれ/歪みです。

確かに保守党のバックにはいまだに大企業の経営者がついていたりします。いまのキャメロン党首は自身がアッパーミドル(あるいは上流)の出身で嫁は上流出身、教育はイートンからオックスフォードという、おハイソをカリカチュアライズしたような人物です。

しかし、こんなかれを支持しているのは、男性ならサン、女性ならデイリーメイルといったタブロイド新聞を読む人たち、いわゆる労働者と呼ばれる人たちです。かれらは、保守党なら自分たちがだいじにしたい「ブリティッシュネス(英国らしさ)」を守ってくれると信じて投票します。アンチEU、アンチ移民です。(ちなみに、サッチャーは八百屋の娘、メイジャーはサーカス芸人の息子で、両方とも公立校の出身です)

また、労働党のコアな支持層もいわゆる労働者だけではありません。労働者だけではどうしても政権につけないので、ブレアが党首になったときに中流獲得を目標にして党綱領をすっかり書き換えました。昔ながらの党員はこの時点で去り(党員数が半減したと言われています)、ユニオンもサッチャーにずたずたにされましたから昔ほど元気ではありません。つまり、労働党は労働者の支持者の上に中流を上積みしたのではなく、コアな支持者を切り捨て、大量の浮動票を手に入れたわけです。

さて自由民主党ですが、自由党と自由民主党は実はひとつながりのものではありません。80年代の始めに労働党を飛び出した穏健な左派グループが、88年に自由党と合併して作ったのが現在の自由民主党で、党ができた当時から中道左派です。その際、昔ながらの自由主義を貫きたい一団は合併派と行動をともにせずに残ったので、自由党という党はいまでもあります。とても小さい勢力になってますが。

***

日本の政治体制はイギリスをモデルにしているとよく言われるが、二院制であることを除けばほとんど似たところはない。その二院制にしたところで、イギリスの上院は公選制でないので、公選制でないがゆえの問題ももちろんあるが、憲法の番人としての役割分担は日本よりいっそうはっきりしているように見える。

イギリスと日本の政治の違いについていえば、政治体制の問題より実は有権者の参加意識の違いの方がずっと大きいと思う。政治に関心をもつことがあたかも悪いこと、かっこわるいことであるかのような日本の風潮(戦後の社会党つぶしの際にアメリカが導入した思想教育の一端かと思うが調べてみないとわからない)は、イギリスではまったく考えられない。

むしろ、社会のことにまったく関心がないなどと発言することは、軽佻浮薄に見えるセレブリティにとってさえ命取りになりかねないのがイギリスという国だ。何か言ったからといて必ずよい成果を得られるわけではないし、意見を言うだけのただうるさい輩も多く、いたずらに混乱を招く場合もあるが、ともかく関心をもたないと何も始まらない。

こうした土台を無視して形だけ似せようとしても同じものはおろか、似たものさえできない。ちょっとした逆風でオタオタする政治家もみっともないが、よく考えもせず、知ろうともせず、流行歌の好みや晩のおかずと同じように政治を感情で判断する有権者の存在が、日本の政治がよくならない根本的な原因だと思う。
posted by nfsw19 at 00:00| ロンドン ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 知恵袋回答 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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