[知恵袋] イギリスの自民党結党のいきさつを教えてください。

イギリスの自由民主党（リベラルデモクラッツ、略称リブデム）は
労働党ができる前に保守党と二大政党を担っていた自由党が前身のようですが、
結党のいきさつを教えてください。

＊1981年に労働党の右派が党を分け、社会民主党を結成、自由党は社会民主党と同盟関係を結ぶ。
＊1988年に両者は合同していまの自由民主党を結成。

自由民主党結党のいきさつから現在に至る流れについてのみ、補足します。

1981年に労働党から飛び出したグループは当時の労働党の中では相対的に右派に位置づけられますが、政治的には中道左派あるいは穏健な左派と考えてよいと思います。

というのも、当時の労働党はユニオンが党首選に大きな影響力を持つなど極端に左側に振れた状態あり、それ自体は労働党が労働者の政党である以上当然なのですが、そのままでは、当時増加しつつあった中流階級の票を取り込んで保守党から政権を奪い返すのは絶望的と見られていたからです。

保守党から政権を奪うことを目標に労働党を飛び出した穏健派の左派クループは社会民主党を結成し、中流層に食い込むために社会主義的な方針をやや緩め、やがてかつて保守党と二大政党を構成していた自由党と合併して自由民主党を結党。以降、政治的な位置づけは結党時も現在も中道左派です。当時のイギリスの政治勢力図でいうと、右に保守党、左に労働党があり、自由民主党はその中間という位置づけでした。

一方、労働党は、首相（保守党党首）がサッチャーからメイジャーに引き継がれても政権党には浮上できず、世論調査では保守党をしのいでいるのに選挙では勝てません。そんな中、1994年に若いトニー・ブレアが党首に。労働党は産業国有化を党綱領から外し、第三の道に方針を切り替えます。第三の道、すなわち、右に保守党、左に従来の労働党（オールドレイバー）、そしてその中間にニューレイバーという位置づけです。つまり、自由民主党とニューレイバーはどちらも中道左派の位置づけとなり、自由民主党は存在感を示しにくくなりました。

1997年の選挙で労働党が地滑り的勝利を納めると、トニー・ブレアを首相とするニューレイバー政権が誕生します。自由民主党は第三位にはなるものの、小選挙区制のせいで政権を狙えるような勢力にはなれません。

転機は2001年の9.11です。これ以降、ブレアのニューレイバーはブッシュ政権と足並みを揃え、防衛問題を中心に右傾化していきます。特に2003年のイラク戦参戦を問う議決では自由民主党は党を揚げて反対し、若年層を中心とする反戦市民の支持を得ます。この議決は複数の閣僚の辞任など労働党内から大量の造反者を出しながら、積年のライバルである保守党の力を借りて国会を通過するという異例の道筋で成立しました。

この時点以降、現在まで、ニューレイバーの位置づけは中道右派と言ってもよいと思います。保守党はこれと差別化するために一時、極端に右傾化したこともありますが、その後、現在のキャメロン党首のもとに少し左側に修正し、選挙が近づいて来た辺りからまただいぶ右寄りになってきています。というのも、党のイメージを左寄り（グリーン）に動かしたことにより従来の保守党支持者（右派）がもっと右寄りの小政党に魅力を感じるようになり、小選挙区制でない欧州議会選や地方議会選ではナショナリスト政党が伸長したからです。

労働党は、サッチャーの新自由主義を継承するニューレイバーとなった時点でそれまでのコアな支持層、ユニオン関係の党員をぐっと減らし、第三の道による福祉社会の回復に期待して投票した中流層にも徐々に愛想をつかされ、アフガニスタン、イラクの二つの不人気な戦争によって決定的に支持者を失いました。昨年の欧州議会戦と地方選は惨敗で、議員数ではすでに保守党、自由民主党に続く第三党でしたから、現在の落ち込みも予想されていました。

今現在のイギリスの政治色分けは、保守党が右、労働党が中道右派、自由民主党が中道左派です。自由民主党の中道左派は、ヨーロッパの伝統的な社会民主主義の流れをくむものと考えていいと思います。党首のニック・クレッグは現在43歳で公言する無神論者、父親はロシア人とイギリス人のミックス、母親はオランダ人、妻はスペイン人の弁護士（クレッグより高給取りで選挙選には多忙を理由に同行しませんでした）。5カ国語を自由に操る歩く欧州議会のような人物です。