2010年04月07日

イギリスは男女平等の理念が浸透しているんでしょうか?

古い記事ですが新たに動画を貼付けたのでしばらくこのあたりに置いておきます。(2013-01-23) → 元の位置に戻しました。(2013-01-28)

[知恵袋]回答 2010-04-07

ハリー・ポッターの映画を見ていて、
女性は男性に保護されている訳ではなく、
自分の身は自分で守るのが当然という感じを受けました。
イギリスは日本に比べて男女平等の理念が浸透しているんでしょうか。


ある国に男女平等が実現されているか、つまり、女性に男性と同等の権利があるかどうかを知るには、女性参政権がいつから、どのようにしてその国で実施されたかをみるといいと思います。参政権があるということは自分たちの利益を代表する人物を議会に送り込めることを意味しますから、社会的な権利の拡大には欠かせない条件です。また、参政権を得てからの年月が長ければ、それだけ権利の拡大が浸透している可能性も高くなります。

イギリスの女性参政権の実施は1928年です。サフラジェッティと呼ばれる女性参政権活動家たちの逮捕、ハンスト、殉教を含む過激な運動を経て実現したもので、イギリスの学校では黒人奴隷制度廃止(1833年)と並んで必ず勉強します(この奴隷解放運動も原動力になったのは社会の主流ではないクエーカー教徒と、中流階級の女性の砂糖不買運動などを含むグラスルーツの運動です)。

女性参政権の実施は英語圏では概して早く、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカ、カナダがイギリス以前に女性参政権の行使を実施しています(被選挙権は遅れて実施された場合もあります)。他の宗教よりはキリスト教が、カソリックよりプロテスタントのほうが男女平等に積極的であったように見えますが調べたわけではないので断定はしません。(余談ですが、ディズニー映画の『メリー・ポピンズ』に、バンクスさんの奥さんが婦人参政権運動のデモに出かけるところが出てきます)


『メリー・ポピンズ』の動画を貼付けました。スクロールダウンしてご覧ください。(2013.01.23)


これは日本で言うと昭和の始めで、日本にも平塚らいてうや市川房枝による婦人参政権運動が大正時代からありましたが実現しませんでした。日本で女性参政権が立法化されたのは1945年で、マッカーサーの五大改革の一つ、「参政権付与による日本婦人の解放」として実施されたものです。というわけで、日本では女性の参政権も直接的には戦って勝ち取ったものではなく、民主主義の実現と同様に敗戦によって外からもたらされた恩恵の一つという側面があります。

といったようにイギリスの男女平等には長い歴史がありますが、実際のところ、戦前は「男は外で働き、女は家庭を守る」が主流だったようです。しかし戦時中、働き盛りの男性が戦場に取られたために、それまで男性の職場であった職種に女性をあてなければならない状況が発生しました。で、やらせてみると、意外なことに女性がけっこう有能なことがわかり、女性の側も「な〜んだ、やればできるじゃん」となったようです。(また余談ですが、映画『クイーン』のなかでエリザベス女王が4DWを自ら運転して狩猟に出かけるシーンがありますが、実際に戦時中、クイーンはメカニックとして働いていたので簡単な車の修理ぐらいは自分でできるそうです)

戦争が終わって男たちが戦場から戻ると他国と同様にイギリスにもベビーブームが起きます。子育てもあるし働き手も戻ったしで女性はまた家庭に戻りましたが、60年代、不況によって大黒柱が揺らぐ時代がやってきました。稼ぎ手が二人いないと食べて行けなくなったんです。で、やむを得ず、女性の社会進出が始まりました。

女性が安心して家庭を後にし、男性と同様に働くためには、医療や教育などそれまでおもに女性が家庭で対処して来た福祉に対して社会が責任を持たなければなりません。幸いなことにその頃までには、戦後の労働党政権の社会福祉政策の実施により女性が社会進出する基盤は整っていました。

そんなわけで、以来イギリスでは女性も男性と同様に仕事に就くのが一般的で、日本のように結婚したら仕事を辞めるとか子育てや老人介護のために家庭に入るといった考えは主流ではありません。子どもも男女を問わず早くに独立する傾向があります。

職環境での男女差別も徹底して排除されるように法律で定められていて、例えば、履歴書には性別を書く必要はなく、特殊な仕事でない限り、雇用主も就職希望者に性別を尋ねてはいけないことになっています。また、産後は配偶者あるいはパートナーの男性に2週間の休暇が認められていますから、出産したばかりの女性の世話や赤ん坊の世話に最初から男性がかかわることが可能です。

なんでもすぐにイギリスの階級制度を持ち出して訳知り顔で批判される方がいらっしゃいますが、イギリスの社会は、階級、人種、性別その他の差別があることを前提に、それに立ち向かい、是正する方法を積極的に取り入れることで成り立っている社会です。差別がないことを前提にして差別に立ち向かわない国よりはずっと建設的だと思います。

とは言え、なかなかすべてが男女平等とはいってないので、『ハリー・ポッター』でも人間の血を引く(血統の悪い)、女性のハーマイオーニーがすごく優秀だったりするでしょう? その程度のポリティカリーコレクトネスは必要なんだろうなあとは思います。

***

最後から2番目に段落で唐突に階級制度にふれているのは、同じ質問に対する別の回答者への牽制だ。知恵袋の参加者には外国人差別、人種差別、民族差別をわかっていてわざと繰り返す人の他に、差別と知らずにそうしている人がけっこうな数いる。で、そういう人たちはなにしろ日本が一番の傾向があり、他国の欠点を拡大したり歪めたりして強調する。

イギリスの階級制度はしばしばそういう方向性を意図して使われる要素の一つで、よく知りもしないくせに「イギリスには階級制度がありまして‥‥」を枕にでたらめな回答がひねりだされることがあり、時々、そういった理不尽な回答に反論するためだけに回答を書き込んだりしている。わたしと同じように、わたしよりずっと前から、これをやっている人が何人かいて、たいがいイギリス居住者か元居住者だ。

イギリスにクラスディバイド(階級による分断)が存在しないなどと言うつもりはない。子どもでも知るものとして階級と言う概念が歴然と存在し、確かに社会のなかでいろいろな障害の元になっていたりはするし、イギリスの政治は多くの場面で、この階級問題とのせめぎあいで動いていると言っても過言ではないだろう。

ただ、実際問題、階級だけが単独で障害の原因になっていることはむしろ少なく、もっと様々な要因が複雑に絡み合って問題は起きている。その絡み合いを解きほぐしつつ、個々の問題の解決策を探すとともに、クラスディバイドも解消しようと努力し続けているのがイギリスの政治であり社会だと思う。もちろん、そんなにうまくはいっていなくて、いつも問題山積みだけど。



映画『メアリー・ポピンズ』のミセス・バンクス
Sister Suffragette - Walt Disney's Mary Poppins

posted by nfsw19 at 01:00| ロンドン | Comment(0) | TrackBack(0) | 知恵袋回答 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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