<イギリスはEUを脱退しますか?
EU参加継続か脱退かでイギリス国内は2分しています。
EU未参加で永世中立国のスイスですら加入している
域内自由移動を可能とするシェンゲン協定にすら完全参加していません
ユーロにも参加していないのに負担だけ押し付けられてもイヤだと
英国民が考えるのは当然だと思います>
イギリス在住です。タカ派ワナビーのキャメロンは昨年来EUに対してかなり高圧的ですが、ほんとうに近々国民投票をしようと考えているかどうかはわかりません。保守党内にも反対意見がありますし(もちろん、キャメロンよりもっと強力なアンチEU議員もいますが)、第一にいま連立与党を組んでいる自民党が、イギリスのメジャーな政党のなかではもっとも強く親EUを打ち出している党なので、この線をあまり強く押すと連立解消になりかねません。年頭の記者会見ではあいかわらず仲良さそうにしてましたけど、自民党党首のニック・クレッグはEU議会で働いていたりEU議会議員だったりした経歴があり、いまやずたずたになった他の公約とは異なり、おそらくこの線は譲れないでしょう。
キャメロンがEUに対してホーキッシュに出ているのは、多分に国内向けのポーズのように見えます。と言うのも、キャメロン内閣のスタートと同時に始まった予算引き締めの(直接的間接的な)影響で大学進学をあきらめる子どもや若年失業者が増加し、年金支給年齢が上がるやら金額は減るやら公務員はばざばさ首を切られるやらで現政権に対する不満が渦巻いています。
その不満のはけ口の一つとして東ヨーロッパからの移民がやり玉にあがっており、安い給料で働く東ヨーロッパからの移民のせいで仕事がないとかNHS(国民健康保険制度)が圧迫されているとかいった右派のプロパガンダを信じている人は多いです。実際のところ、東ヨーロッパからの移民は概して教育が高く(教育のないような人は国を出られませんから)、比較的高給であったり自分で事業を興す人も多く、社会保障の世話になるような人はごくわずかのようですが、被害者意識に染まった一般大衆を説得するには至っていません。
そのため、EUからの離脱と移民制限を旗印とした右派(というより極右)政党が勢力を伸ばしており、昨年の補選や地方議会選の多くに労働党が勝利しているばかりでなく、次点を極右に取られて保守党が3位以下などというケースも少なくありません。キャメロンのEUに対するタカ派的言動は、こういった極右鞍替え組み向けのポーズではないかと思います。とは言え、わたしは親EUですから、希望的にそう見えるのかもしれませんが。
仮に国民投票が近々実施されれば、これまでに述べたような国内事情を背景に、EU脱退に向かうんじゃないでしょうか。
ところで、イギリスは(アイルランドとともに)シェンゲン協定に完全参加はしていませんが、実質的に国境はすべてのEU諸国に開放されており、人、モノ、金の行き来に制限はありません(相互に)。また、「ユーロにも参加していないのに負担だけ押し付けられてもイヤだと英国民が考えるのは当然だ」についても、そういうプロパガンダはありますが、実際にイギリスの全輸出高の半分は(モノの行き来の自由さに頼る)対EUですから、EUから脱退したら製造業を中心にたいへんな損失が発生するでしょう。いまのイギリスは(世界のほとんどの国と同様)、そのようなリスクを負えるような状態にないことは言うまでもありません。
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...で、次の選挙で政権を取ったら国民投票を実施するとのことである。つまり、過半数取れればいいが、仮に勝っても過半数に届かなかった場合、リブデムとの連立はありえないので、もしかしてUKIPと連立するってことかい?(UKIPがそれなりの議席を取れた場合だけど)
ちなみに、UKIPは「紳士のBNP(極右政党)」とも言われるスーツの似合う極右政党で、コモンに議席はないものの欧州議会には10議席以上を持ち、地方議会にもけっこうな議席を持っている。去年の補選で保守党を抑えて次点にもなっており、これが今回の「次の選挙に勝ったら国民投票実施」のきっかけになっている。
つまり、この「騒動(としか言いようがない)は「政策」でもなんでもなく「政局」がイッシューという、どっかで聞いたような話である。(2013.1.22 追加)