速報939号:チェルノブイリ被害実態レポート 第2回 「大気、水、土壌の汚染」
2012-4-25 23:56:17
瓦礫の広域処理は「助け合い」になるのか1986年4月26日のチェルノブイリ原発4号炉の大爆発から26年が過ぎようとしている。大地震と大津波に続く福島第一原発の「同時多発メルトダウン事故(原発震災)」以降、日本人の原発および放射能汚染に関する知識は格段に深まったが、人の汚染についての知識が広く共有されているのに比べ、環境の汚染に関しては期待と実態を取り違えたようなセンチメンタルな「常識」がまかり通っているように見える。
その最たるものが「瓦礫の広域処理」だ。「痛みの共有」「復興の援護」「助け合い精神」などの美名のもとに、被災地の瓦礫が全国に拡散されつつある。風にのり、水に溶け、広範囲に拡散する放射性物質の性質から、1年以上も被災地に放置されていた瓦礫の多くには、多かれ少なかれ放射性物質が付着/沈着しているであろうことに疑いの余地はない。これを今度は人の手で、いまはまだ汚染のない関西以西の地にまで広げようというのがこの計画だ。
放射能汚染の拡大や沈着については、地表の空気中での広がりや水域、土壌中での濃縮の経路などが、チェルノブイリ事故の環境への影響を研究する過程でわかってきている。これらを読むと、放射性物質はそれに汚染されたモノごと可能な限りまとめて閉じ込めてコントロール下に置き、核種それぞれの寿命が終わるのをじっと待つしかないのがわかる。放射能汚染されたモノを広く分散しても汚染があっちからこっちに移動するだけで、放射性物質の全体量が小さくなるわけでも核種の寿命が短くなるわけでもない。
よく知られているように被曝から疾患に至るリスクは人によって異なる。大人より子どものほうが放射能に対する感受性が高く、男性より女性のリスクのほうが大きいが、年齢や性別による違いに加えて個人差も激しい。免疫や代謝にかかわる疾患をすでにもつ人なども含め、放射能への感受性の高い人が全国どこにでも一定程度いると仮定すると、放射能に汚染された瓦礫の拡散は放射線誘発性疾患を発症するリスクを全国に広げる行為以外のなにものでもない。また、被災地から遠く離れれば離れるほど、時間が経てば経つほど、仮に放射線誘発性の疾患を発症しても、その疾患が放射線に起因するものであるかどうかがますます見えにくくなる。
瓦礫の広域処理には放射線被曝のリスク以外にも問題がある。瓦礫処理の受け入れを断るとか受け入れ意志を鮮明にしないと、その自治体がまるごと人非人あるいは非国民であるかのような非難にさらされることだ。これほどの規模の大災害および大事故を乗り越えるには、すべての面において全国民の協力が欠かせないにもかかわらず、瓦礫の受け入れ行為があたかも「踏み絵」のように働き、自治体ごと日本が二分されているのではないか。意図してか、意図せずにかはわからないが、いまの政府(野田内閣)が進める瓦礫の広域処理をめぐるごたごたは、支配者が支配構造を確かなものにしたり、被支配者の生活を脅かす別の問題から目をそらしたりするために取る古典的な手法、「分断統治」と同じ効果を持つだろう。
この「ごたごた(としか言いようのない状況)」を見ていると、被災者への支援はあたかも瓦礫の受け入れ以外にないかのようだ。しかし、たとえば放射能値の高い地域の子どもたちの集団疎開地に名乗りをあげるとか長期休みのための検診付き保養地になるとか、あるいは、転居を考える被災者に仕事と住まいを提供するとか農地付きの転居先をアレンジするとか、各自治体が知恵をしぼれば様々な取り組みがすぐにでも可能だろう。
また、瓦礫の広域処理がほんとうに被災地のためになるかについても疑問が多い。被災地では道路や鉄道の再建や護岸工事のために多くの資材を必要としており、瓦礫をセメントで固めることで建築物の基礎や沈下した土地の土台として使用できるに違いない(諸外国では建築ゴミは通常そのようにして埋立てなどに再利用されている)。また、これから現地に建設される予定の風力発電設備の基礎として生まれ変わることも可能かもしれない。瓦礫を仕分けしてセメントで固めることで放射能の外界への影響を減じたり、放射性物質の飛散や水への溶解を防止したりできるし、たとえ数十年後にセメントが崩れても、そのころにはすでに寿命の尽きている核種も少なくないはずだ。瓦礫を地元で再利用すれば全国への運搬の際に不可欠な燃料も節約できるし、それらの作業によって地元に雇用も産まれるだろう。
こういった、すぐにでもできて費用も節約できる様々なアイディアはすべて昨年の夏頃には提案されていたのに、確たる理由もなく実現されないまま、被災から1年もたってから瓦礫の広域処理が叫ばれている。妙じゃないか。放射性物質拡散のリスクと世論の混乱を回避し、貴重な燃料を節約して地元に雇用を作る瓦礫処理が実行されないのはなぜだろう。再建に使うべき税金を使って瓦礫を全国に運ぶことで、どこかのだれかが利益を得る仕組み、すなわち火事場泥棒がいるのではないかとの疑いが晴れない。
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昨年(2011年)9月に第1回の「チェルノブイリ被害実態レポート」を配信して以来ずいぶん時間があいてしまったが、その間も翻訳作業は続いており、遠からず書籍の形にまとまる予定だ。和訳版は2009年に出版された英訳版報告書『チェルノブイリ――大惨事が人びとと環境におよぼした影響(Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment)』をベースに、昨年出版されたロシア語版第三版からの最新の情報も加えた日本語版独自の編集になる。
チェルノブイリ事故26周年を前に、プロジェクトの許可を得て今回お届けするのは「大気、水、土壌における汚染」で、放射性物質が空気や水や土といった非生物要素をどのように汚染したか(汚染し続けているか)が概説されている。特に注目したいのは被災地域での森林火災による放射能汚染の拡散で、ここから瓦礫の焼却処理の危険性を読み取ることができるだろう。また、核種が土壌や水中でどのように移動するかを知れば、除染作業をより効果のあるものにもできるのではないだろうか。
以下のテキストは同書「第3章 チェルノブイリ大惨事が環境に及ぼした影響」の概論と、その章冒頭の「第8節 チェルノブイリ後の大気、水、土壌の汚染」の全文と訳注全文ですが、メールでの回覧を考慮して図表は外しました。図表はプロジェクトのブログでご覧ください。
なお、テキストは必要に応じて訂正・修正されます。現時点ではこのテキストが最新ですが、速報配信から時間をおいて読まれる場合はプロジェクトのブログをご参照ください。当該テキストの末尾に訂正履歴がついています。
http://chernobyl25.blogspot.com/この速報を転送される際はヘッダーからフッターまでを含む速報の全体を、また本文の全文転載にあたってはプロジェクトに直接許可を得てください。一部を引用される場合はTUP速報 <
http://www.tup-bulletin.org/ >および翻訳プロジェクト <
http://chernobyl25.blogspot.jp/ > のウェブアドレスを明記してください。
今号の内容は以下の通り
第3章 チェルノブイリ大惨事が環境に及ぼした影響
第8節 チェルノブイリ後の大気、水、土壌の汚染
8.1. チェルノブイリ原発事故による地表の空気中の放射能汚染
8.2. チェルノブイリ原発事故による水界生態系の放射能汚染
8.3. チェルノブイリ原発事故による土壌の放射能汚染
8.4. 結論
訳注一覧
昨年9月に配信した「TUP速報925号:チェルノブイリ被害実態レポート 第1回」はTUPのウェブサイトにあります。
http://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=957前書き:藤澤みどり(TUP)
本文翻訳、訳注作成:チェルノブイリ被害実態レポート翻訳プロジェクト
[訳注]は文末にまとめてあります。
http://chernobyl25.blogspot.jp/2012/03/3.html==========================================
チェルノブイリ被害実態レポート第2回配信
<第3章 チェルノブイリ大惨事が環境に及ぼした影響>
<第8節 チェルノブイリ後の大気、水、土壌の汚染>
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『チェルノブイリ――大惨事が人びとと環境におよぼした影響(仮題)』 (原著はロシア語 英訳はニューヨーク科学アカデミー刊 和訳は岩波書店より刊行予定)から
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